研究課題/領域番号 |
20K02139
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研究機関 | 城西国際大学 |
研究代表者 |
魚住 明代 城西国際大学, 国際人文学部, 教授 (90228354)
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研究分担者 |
廣瀬 真理子 城西国際大学, 国際人文学部, 客員特定研究員 (50289948)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ / オランダ / キリスト教民主主義 / 社会福祉行政 / 福祉国家 / 公私関係 / 家族主義 / 民間福祉団体 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、初年度の基礎的な文献研究の成果を踏まえ、ドイツとオランダの福祉国家の特徴を明らかにするために、福祉行政の歴史に焦点を当てて現地調査を行う予定であった。具体的には、両国に共通する福祉サービスの提供主体として発展をみた非営利団体と地方自治体の関係に着目し、それらがいかなる変転を経て現代の福祉国家のシステムに引き継がれて来たのか、という問いのもと、文献研究と研究者へのヒヤリングを行い、福祉国家の公私関係と地方分権化の特徴を明らかにする計画であった。しかし、欧州においても新型コロナウイルスによる感染症が想定外に長期化したことで渡航が困難となり、現地調査の実施を断念して文献研究を中心に行うこととした。 そこで昨年に引き続き、オンライン研究会で情報共有を図りながら研究課題の要点整理を行った(通年で7回実施)。文献研究では、家族史研究やサードセクター等に関する重要な文献を取り上げた。例えば『概説子ども観の社会史』(ヒュー・カニンガム、1995)他の文献を参考に、両国に共通する家族主義の伝統が、大陸型福祉国家の生成と発展にいかなる影響を与えて来たのか、福祉国家前史に遡り、社会史の視点から概観した。つまり、子どもの存在が資本主義社会の興隆の中でどのように変化したのか、「児童労働」「学校教育」「貧困」「虐待」などのトピックスを通じて、現代の福祉国家が対象とする子どもと家族の捉え方に至る経緯についての議論を行った。また『欧州サードセクター』(A.エバース、J.L.ラヴィル、2004)他の文献からは、サードセクター発展史について、2か国比較の視点を得ることが出来た。両国の民間非営利団体とキリスト教会や国家との関係が明らかになり、歴史的な時期ごとに両国の相違点を明確にするために発展史の年表を作成しつつある。文献研究で得られた視点を、実証研究で活かせるよう調査項目の整理を行いつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度の本研究活動は、基本的にオンラインで開催する研究会でのやり取りに留まり、また国内での移動も制限されていたことから、当初予定していたような研究活動の遂行に支障が生じた。また上述のようにドイツとオランダで調査を実施することを予定していたが、渡航の延期を決定することとなった。この点では「やや遅れている」と言わざるを得ない。 とはいえ、今年度に文献研究による基礎的研究を行い、福祉国家構築の歴史を現代から見渡せたことの意義は大きかった。まず、ドイツ、オランダの福祉国家形成に関する歴史的研究を踏まえ、十分な議論を通じて両国の相違点を明らかにできたこと、次に宗教的基盤の類似性が福祉国家発展の基盤にある事を改めて確認することが出来た。更に歴史的宗教的背景を踏まえて、ドイツとオランダの法・政策史に関する年表作成に着手することが出来たことも成果である。今後はこの年表を項目別に分類して、より詳細な発展史を辿ることを課題としたい。最後に、国外の研究者から本研究テーマにとって重要な研究文献を示されたことも意義深かった。このことを通じて、当該研究領域において、本研究を遂行する意義や妥当性を改めて確認出来た。次年度は、当初の研究計画の遅れを取り戻すために、早急に調査計画を見直して、実現に結び付けられるよう努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(令和4年度)は、今年度に引き続き、文献研究を行うとともに、ドイツとオランダを訪問してヒヤリング調査を実施する予定である。 まず、文献研究では、社会福祉におけるキリスト教会と国家の関係について、両国の相違を明確にするために、ドイツ、オランダに其々焦点を当てた文献研究に取り組む。例えば『福祉国家の多様性(Varianten des Wohlfahrtsstaats)』(F.-X.,Kaufmann,2003)等で取り上げられた欧州各国比較の軸を参考とし、両国の他ヨーロッパ諸国との相違や特徴に注目しつつ、両国の比較をより詳しく検討することを課題としたい。次年度内に、オンラインもしくは対面の研究会を10回程度実施する計画を立てており、文献研究を更に深めることと平行して、現在作成中の法・政策史年表の完成に繋げたい。 次に、現地調査については、研究代表者(魚住)と研究協力者(廣瀬)が其々ドイツとオランダを訪問する。ドイツでの訪問先は、ミュンヘンのマックス・プランク社会法/社会政策研究所(MPI)、キリスト教系中間団体を予定している。オランダでは、ライデン大学の他、社会福祉を担う民間非営利団体(アムステルダム、ライデン市)の訪問を予定しており、作成中の調査項目に従って、其々が研究者や活動家の見解を聞き取る。 新型コロナウイルスによる感染状況は、現時点では一応の落ち着きを見せる傾向にあるが、慎重に状況変化を注視し、調査を実施したい。滞りなく調査を遂行できれば、ひとまず調査結果をまとめて調査報告を作成する予定である。本研究において、歴史的視点を踏まえた両国の福祉国家発展の比較研究が進めば、ドイツとオランダが取り組む現代の福祉国家改革の成果と課題をより深く理解することに繋がるはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用分が生じた主な理由は、新型コロナウイルス感染症拡大により、令和3年度に予定していた欧州での現地調査を実施できなかったためである。 現地調査を遂行するには、調査に必要な費用(渡航費、現地での国内移動費、現地でのみ購入可能な文献や資料の購入費、謝礼、および緊急時に入用な費用等)を十分に見積もり、確保しておく必要がある。現時点では、渡航費(航空運賃)の高騰だけを見ても、当初の予定を大幅に上回ってきていることから、予算計画を慎重に立てる必要がある。そのため、本年度科研費研究の予算を使用せずに、次年度に繰越すこととした。次年度の予算は、現地での調査が可能と判断される状態になり次第、執行する予定である。また現地調査を滞りなく実施することが出来れば、調査結果の入力およびデータ処理等の作業に関して人件費の支出を行い、調査報告書作成に関わる費用(印刷等)も支出することになる。加えて、当初より令和4年度に予定していた文献資料等の購入に予算を支出する予定である。
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