フランスにおける非正規移民女性の正規化運動について、ポストコロニアルあるいは脱植民地主義を掲げるフェミニズムの観点から文献および、インタビューに基づいた研究を行った。非正規移民は、そもそも政治的な存在を否定されているがゆえに、公的な場で声をあげても、その声はなきものにされる。それにもかかわらず、フランスにおいては2000年代以降、現在に至るまで非正規移民の正規化措置が、運動の結果としてたびたび行われている。 非正規移民の女性の正規化運動を支える論理になっているのは、アメリカ合衆国で発達した「ブラック・フェミニズム」であり、アフリカにルーツのあるフランス人研究者がアメリカで研究活動をすることで、アンジェラ・デイヴィスやベル・フックスの理論が紹介されるようになった。 しかしフランスの移民研究においては、問題を分析するにあたっての説明変数であるジェンダーや人種、階級を「インターセクショナリティ」というブラック・フェミニズムの理論的支柱に基づいて論じることへの批判も強い。G.ノワリエルら移民研究における代表的論者は、とくに人種による差別がフランスにおいて説明力を否定している。 研究における現状は、非正規移民当事者や支援運動の現実を一定程度現わしており、移民の正規化運動は、2008年以降もっぱら男性の非正規移民中心の労働運動が牽引していた。非正規移民女性たちは、家事や介護労働など個人を対象とした感情労働に従事しているため、労働運動に参加することは物理的にも、心理的にも困難であり、非正規移民がストライキなどの直接行動を行うさいも、寄付集めをはじめとする後方支援を行っていた。女性たちの運動参加の論理は、「生きるためには他に選択肢がない」という生のあり方そのものに根差しており、フランスの現実に即したブラック・フェミニズムの論理が運動の現場に存在することが明らかになった。
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