研究課題/領域番号 |
20K02147
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
尹 珍喜 北海道教育大学, 教育学部, 講師 (60732253)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 脱北者 / 韓国社会への適応 / アイデンティティ・ポリティクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、韓国社会で急増している「脱北者」について、韓国政府が行なっている韓国社会への適応支援と当事者の対処戦略に注目しながら、その社会的構成を重層的に解明することにある。現在の韓国政府の脱北者支援政策は、脱北者の急増に対応できず、個別ニーズに応えられないという問題が生じている。そこで、その乖離の実態を明らかにすると同時に、韓国政府の脱北者支援政策の位置づけの史的展開及び脱北者支援政策に内在する脱北者へのまなざしを考察する。さらに、「韓国人」であるか「脱北者」であるかといった当事者のアイデンティティ・ポリティクスも浮き彫りにする。 今年度は、当該分野の先行研究および政府の脱北者支援実態に関する資料を整理した。また、脱北者が抱いているアイデンティティ・ポリティクスについての分析枠組みを検討した。 その結果、まず、脱北者は、韓国社会で法的に「韓国国籍者」であるにもかかわらず、社会的に「韓国市民」になることを求められる中で、「韓国人」としてのアイデンティティを受容する側面が見られる一方、「脱北者」という自らの立場を積極的に活用しようとする動きも見受けられた。特に、若年層の脱北者は、韓国社会への適応が結果的に北朝鮮の文化装置や脱北者コミュニティの否定につながることへの葛藤を抱く中で、自らを「北朝鮮から来た韓国人」ではなく「韓国在住の北朝鮮人」として表現することで文化的多様性を主張していたのである。 このような知見は、第40回家族関係学部会セミナーで「アイデンティティ・ポリティクスにおける脱北者の社会的構成の探究」というタイトルで、また、函館人文学会 2020年度大会で 「韓国在住脱北者のアイデンティティ・ポリティクス」というタイトルで発表を行なっている。また、同内容は『人文論究』第90号にも掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍において、対面授業からオンライン授業への切り替えなど、通常より授業準備や業務に大きな時間を費やさなければならなくなったため、普段の研究時間を確保するのに困難が生じた。また、海外への出張が懸念されているため、韓国でインタビュー調査を実施するための準備にやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
韓国でのインタビュー調査を実施する。脱北者への教育支援機関である「ハナ院」、もしくは、各地域で脱北者の生活定着を支援する機関である「ハナセンター」を訪問し、施設に勤務する支援者および、同施設から支援を受けている脱北者へのインタビューを実施する。 具体的には、支援の内実、その意味づけ、効果について、支援者、脱北者双方からの聞き取りを重ね合わせる「羅生門的手法」による調査・分析によって、その認識のズレを探ることで、支援とニーズのミスマッチ構造を浮き彫りにする。同時に、そうしたミスマッチの現状をフィールドワークで把握される実際の支援の現場のあり方からその要因を把握する。 コロナの状況が改善されず直接訪問が難しい場合は、zoomなどを用いたインタビューの実施も考慮して準備する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、コロナ禍において、研究会や学会が中止もしくはオンラインでの開催になったため、移動に必要な経費が使用されなかった。また、韓国調査の事前準備のための旅費も使用されなかったため、次年度使用額が生じてしまったのである。 次年度は、海外文献購入、状況が改善される場合は年末に調査準備のための韓国への旅費、オンラインでのインタビューに備えて、電子機器の購入に使用する予定である。
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