前年度に続いて1990年代から2010年代における女性の就業行動に関するデータ分析をおこなった。 日本では1990年代以降、給付資格が労働市場でのポジションと強くリンクするような社会保障システムが維持されつつ、ワークライフバランス政策の進展と労働市場の二重性の深化が同時におこった。さらに教育政策の文脈においては、1990年代後半以降、子育ての第一義的な責任を家族/親に求めるような家族主義的な傾向を強めているという指摘もある。こうした背景をふまえて、本研究では1990年代以降、女性の離職や転職の傾向にどのような変化がみられたかについて、データ分析をおこなった。25-45歳の女性を対象に分析をおこなった結果、次のような知見を得た。第一に、1993-2004年に比べて2010-2017年においては正規雇用者にのみ離職が起こりにくくなっていることが確認された。このことは、1990年代以降のワークライフバランス政策の進展によって女性の就業が促進されたものの、その恩恵を被ることができたのは正規雇用者であり、非正規雇用者にはそのような恩恵が行き渡っていないことを示唆する。第二に、末子が0-6歳の時期の幼い子どもを育てる女性において、近年ほど離職が起こりにくくなっているとはいえなかった。これは近年のワークライフバランス政策の進展によって育児休業取得や短時間勤務が可能になった一方で、その利用者の多くは女性であり、女性の子育て責任が軽減されたわけではないこと、それが依然として幼い子どもを育てる女性の就業を難しくしていることを示唆する。第三に1990年代以降、正規雇用者のほうが非正規雇用者よりも転職が起こりにくい傾向には変化がなかった。このことは25-45歳の女性においては、転職は比較的地位が不安定な人びとに起こりやすいイベントであり続けていることを示唆している。
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