研究課題/領域番号 |
20K02155
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
吉田 崇 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (80455774)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ジェンダー公正 / 男女格差 / ヴィネット調査 / 家事分担 |
研究実績の概要 |
本研究では公私両領域における男女不平等、すなわち(a)労働市場と(b)家庭内分業の双方における不平等構造が持続するメカニズムをジェンダー公正の観点から実証的にアプローチすることを試みる。実証研究では既存の社会調査・公的統計の分析に加え、独自に実施予定のヴィネット調査を用いた実験的アプローチを分析を中核に据えている。 本研究は(1)先行研究のサーベイ、(2)既存の社会調査・公的統計の分析、(3)ヴィネット調査の企画・分析、という3つの段階からなり、1年目は(1)、(2)と(3)の準備を行った。(1)については同一価値労働同一賃金原則の研究知見および男女賃金格差、性別職域分離、夫婦の家事分担と性別分業意識に関する実証研究のサーベイを行った。(2)に関しては(a)の労働市場における格差については、社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)を用いてライフイベントを考慮した女性の就業継続について分析し、論文を執筆した。また、統計法33条に基づき総務省「就業構造基本調査」の個票データを用い、男女賃金格差の源泉とされる就業継続について、勤続年数および残存率の学歴別の推計を行った。(b)の家庭内分業に関しては、全国家族調査(NFRJ)と働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)を用いて夫婦の家事遂行について基礎的分析を行った。NFRJを用いた趨勢分析に関しては報告書を執筆した。(3)に関しては、欧米での要因配置実験(factorial survey experiment)についての方法論と応用についてサーベイするとともに、統計パッケージJMPを用い要因配置実験を設計する方法を学んだ。また、別の研究プロジェクトでヴィネット調査の実施に携わる機会があり、次年度の本研究における実査の調査設計に向けて実務的経験を積むことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は(1)先行研究のサーベイ、(2)既存の社会調査・公的統計の分析、(3)ヴィネット調査の企画・分析、という3つの課題のうち、特に(1)と(2)を集中的に行う予定であった。(1)については当初想定していた社会階層論、労働経済学、家族社会学、ジェンダー論、心理学などの領域に加え、同一価値労働同一賃金に関して社会政策や労働法の分野での研究成果も取り入れてサーベイを行った。これらに基づいてサーチクエスチョン明確化につなげる。(2)については(a)労働市場における男女格差については、大規模社会調査データおよび公的統計の個票を用いて、男女賃金格差の源泉である勤続年数について分析し、研究会発表を行った。しかし、男女賃金格差そのものについては十分に分析することができなかった。また(b)家庭内分業については、夫婦の家事分担について全国家族調査を用いて横断面の分析を行った。しかし、先行研究で指摘された結果を追認するにとどまり、パネル調査を活用した家事分担の動態は十分に展開することはできなかった。(3)の準備については当初計画では予定していなかったが、2年目に直ちに実施できるわけではないため、準備を行った。日本では実験的アプローチの応用は稀であるため、欧米での要因配置実験を用いた研究手法をサーベイするとともに、統計パッケージJMPを用い要因配置実験を設計する方法を学んだ。また、別の研究プロジェクトでヴィネット調査の実施に携わる機会があり、本研究2年目に実施するヴィネット調査の調査設計およびマルチレベル構造をもつデータ作成に向けた実務的経験を積むことができた。 以上のように、文献サーベイと調査設計準備に関しては順調に進めることができたが、実態把握のためのデータ分析に関しては当初計画より若干の遅れがみられる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目は(1)先行研究のサーベイ、(2)既存の社会調査・公的統計の分析、(3)ヴィネット調査の企画・分析のうち、(1)と(3)の準備を順調に進めることができた。また(2)の(a)労働市場と(b)家庭内分業での男女格差に関する実証研究については、ある程度分析に着手することはできたものの、十分な成果を上げることができなかった。2年目は、まず、(2)の(a)労働市場における男女格差について、引き続き「就業構造基本調査」の個票を用いた分析およびSSM調査、JLPSを用いたライフイベントを加味した分析をすすめる。また(b)家庭内分業については、1年目にNFRJの横断調査による知見を発展させて、JLPS等のパネル調査を用いた家庭内分業の動態について研究を展開させる。特に、コロナ禍という状況下では失業を含む就業形態の変化、労働時間の変化、在宅ワークによる在宅時間の増加、更には休校による家事負担の増加といった現象がみられ、これらにともなう家事負担や家事分業にも大きな変化が生じた可能性があり、コロナ禍の新たな問題として注目を集めている。そこで、最新(2020年実施)のパネル調査のデータを用い、就業および家庭内分業の変化がもたらす諸帰結について、ジェンダー公正に加えストレス論の知見も取り入れ分析をすすめていく。(3)については、1年目に要因配置実験の方法論と統計パッケージを用いた実験計画法を学び、実際のヴィネット調査に調査設計段階から携わることができたため、これらの経験とノウハウを生かして、計画的に調査設計をすすめ実査を行う。コロナ禍で調査実施に関しては予期せぬ困難もありうるが、インターネット調査を予定しているため致命的な障害はないと考えられる。調査実施後は速やかにデータ整備を行い、基礎分析に着手する。
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