研究課題/領域番号 |
20K02162
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研究機関 | 作新学院大学 |
研究代表者 |
藤本 一男 作新学院大学, 人間文化学部, 名誉教授 (40348090)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カテゴリカル・データ / 対応分析 / 多重対応分析 / 幾何学的データ解析 / 探索的データ解析 / 数量化手法 |
研究実績の概要 |
2020年度における本研究の最大の成果は、2020年11月に、Greenacre,”Correspondence Analysis in Practice Third Edition”,2017 の全訳本を『対応分析の理論と実践-基礎・応用・発展-』としてオーム社から刊行したことである。交付申請書の時点では、2019年度中の刊行の予定であったが、内容確認・校正に時間がかかり半年ほどの遅れでの刊行となってしまった。しかし、この校正過程で検討してきた事項は、すべて本研究に直結するものであり、対応分析(CA)、多重対応分析(MCA)、幾何学的データ解析(GDA)の統計学、統計学史の中での位置を確認する糸口を掴むことができた。 その後、2020年11月よりほぼ月1回のペースで、本書を素材とした「対応分析研究会」が磯直樹氏(日本学術振興会特別研究員)をコーディネーターとして立ち上がり、2020年度中に4回まで実施。2021年度に入ってからは2回実施した。この過程で、申請者は、対応分析の解説を中心としながら、1)統計学史の中での位置づけ、2)調査データ分析手法の中での位置づけについて報告し、参加者との討議を継続している。 社会調査法関連のテキストのサーベイについては、2020年度の前半は、第一次緊急事態宣言のために、大学図書館を利用することができなかったが夏以降再開した。 林知己夫の数量化手法をめぐった調査は、基本文献の所在を確認に留まっている。 研究会で使用した発表資料はWebで公開している。また、翻訳書の事例は、すべてプログラミング言語Rを用いて検算、再現しているので、そのスクリプトも公開している。これによって、対応分析の理解を多角的に行う環境を構築している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度(令和2年度)のテーマは【理論的整理】である。 1. 社会調査法テキストのサーベイ:2020年度の前半は、コロナ禍による図書館閉鎖に直面し、動きがとれなかった。後半になって、図書館が再開されたので、文献として確保している。 2. CARME(対応分析と関連技法に関する国際会議)の成果として 刊行されてきた文献を中心に、MCA、GDAの理論的基礎を整理: 2020年度に刊行した翻訳書の内容確認が、まさにこれらの文献を基礎に行われたので、順調に進捗している。CARME関係で刊行された文献4冊のうち1冊だけが未入手。CARMEメンバーによるGDA、MCA関係の書籍の収集も始めている。 3. その過程で、対応分析日本学派として林知己夫による数量化手法の整理:林知己夫著作集を利用できるようにはなった(上智大学図書館、津田塾大学図書館)、また、日本マーケッティング協会(JMRA)に、林知己夫文庫があるので、作業の進展によっては利用する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2021年度の研究課題とそれの推進の方策は以下の通りである。 翻訳の出版と研究会での発表を通じて明らかになったのは、対応分析(CA)/多重対応分析(MCA)というタームが使われる場合には、狭義のそれと広義のそれがあるということである。後者は、フランス語圏では対応分析が「データ解析と同義になっている」という言い方に関係している。つまり、重回帰分析、因子分析などの多変量解析の一つとしての多重対応分析、という面(狭義の対応分析)と、(カテゴリカルデータを含めた)探索的データ解析の中で、探索ツールとしての対応分析/多重対応分析を位置付ける(広義の対応分析)という関係である。これが明示されたことに、重回帰分析なのか多重対応分析なのかという無意味な対比ではなく、データ解析全体を視野に入れた検討が可能になっている。 一番大きな枠組みは、Tukey提唱したEDA(探索的データ解析)である。林知己夫も指摘したように、Tukeyのそれは、量的変数に限定されて主張されていたが、林、そしてフランスの対応分析潮流は、カテゴリカルデータを含めた探索的データ解析を展開している。 こうした視点を明らかに出来たので、調査データ解析全体の中でのこれらの手法を位置付けることが可能になる。 また、個別、対応分析についても、対応分析、多重対応分析を基礎とした幾何学的データ解析の手法における「慣性の分解」が分散分析における「分散の分解」に対応していることが明らかになった。実験計画が可能+量的変数を想定、という調査のフレームワークに対して、実験が不可能な観察データ+カテゴリカル変数という組み合わせの双方を比較しながら整理することができる。 こうした視点を、数理的に確認すると同時に、わかりやすい事例を用意することで最終年度に構想している調査法のテキストの構成構築へとつなげていけると考えている。
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