研究課題/領域番号 |
20K02174
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大門 信也 関西大学, 社会学部, 准教授 (00559742)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | サウンドスケープ / 記憶 / 伝承 / 災害 / 遠州灘 / 前浜 / 波音 / 波小僧 |
研究実績の概要 |
本研究では、開発とともに希薄化する人と自然の関係を、当該地域の歴史が織り込まれた〈音の風景〉をめぐる社会的な「記憶」の側面からとらえなおし、人と自然とのあらたな関係づくりへと活かしていくための手法を検討する。具体的には、津波リスクをかかえ、近年あらたに防潮堤のかさ上げが進む遠州灘沿岸をフィールドとし、とくに同地域に伝わる「波音/波小僧」伝承を手がかりにして、当該地域における海(や浜)と人との関係の変化を明らかにしていく。 本年度は、波音にまつわる伝承の収集および整理、また当該地域の歴史を探究する市民グループとの会合を実施し、過去および現在における地域生活のなかでの波音の捉えられ方とその変化について検討を進めた。その結果、まず現在の当該地域における波音の聴取状況に関する情報収集とその提供について、現地市民グループの協力を得るための見通しを得た。同時に、住民と海との関係をつなぐ場である「前浜(まえのはま)」の風景が変容するなか、人と前浜とのあらたな関係づくりを、住民たちが今後のまちづくりの課題として前向きに見据えている現状を把握した。 また、波音にまつわる伝承に関する資料の検討と分析を行い、次のような知見が得られた。まず波音/波小僧の伝承やそのヴァリエーションは、内陸25㎞にも及ぶ波音の広範囲な物理的伝播を強調しつつ、自然と住民との関係や、そうした関係の人々の生業による違いを伝えていることが明らかになった。また戦後の地域の社会構造の変化をふまえると、波の音が地域にとって「小さい」存在になってきているものの、「前浜(まえのはま)」と称される浜辺での「遊び」の記憶を媒介とする、海と人との興味深いつながりが明らかになった。以上より、波音/波小僧伝承が、人と海との関係をあらたに結びなおすための手がかりになりうることが示唆された。なお、この成果については学会報告で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響から、春夏および冬に予定していた現地調査を実施することができず、秋のみの実施となった。そのため、今後の情報収集に関する見通しを得ることができたものの、波音の聴取状況に関する現地情報の収集を十分に実施できず、また現地住民への個別ヒヤリングも行うことができなかった。そのため、年度内の作業としては、文献資料の収集と整理、分析に重点をおき、その成果を学会で報告した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、遠州灘沿岸地域をフィールドに、海と人との関係のこれからのあり様を、音の風景や記憶に着目しながら、明らかにしていく。 具体的には初年度に先行して実施した歴史資料の収集と分析の結果をふまえ、現在に生きる人々への個別ヒヤリングを、リモートなどの手法も視野にいれつつ実施する。また、初年度に見通しを得ることができた、波音の聴取状況に関する現地情報を、現地市民グループの協力のもと取得する。 またこうした情報収集作業を進めながら、〈音の風景〉をめぐる社会的な「記憶」を次世代へと継承し、あらたな海(自然)と人との関係のつくりなおしに活かすための、記述・実践手法の検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大にともない、20年度においては旅費の支出が予定より下回った。21年度においては、これによる調査不足を補うためにより綿密な現地調査を実施する。またコロナウィルス感染拡大状況をふまえ、遠隔でのヒヤリング等の調査が行えるよう、機材環境を整え、上記調査を実行する。
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