23年度は、22年度にとりくんだ中山間部における伝承の分布や海鳴りの伝搬範囲について、これまで得た地域(三岳エリア、渋川(青砥)エリア)でのフォローアップ的調査を実施し、さらにこれまで調査が及んでいなかった地域(久留女木エリア)においての証言や情報の提供を得てた。当該地域に一帯における海鳴り聴覚文化についての知見をより確かなものにすることができた。毎年行ってきた録音調査も定点を中心に継続し、とくにフィールドレコーディングの専門家である柳沢英輔氏の協力も得て、岸部での海鳴り・波音に関するデータアーカイブを充実させた。さらに遠州灘沿岸地域の公立小中学校の校歌に関する調査を継続して行った。ウェブサイトについても、最新の成果を盛り込んだ形で更新を行った。 また、これまでの市民との協働的な調査活動にくわえ、地域の小学生やその保護者を対象とした出張授業やワークショップを行い、調査成果を還元するとともに地域の環境文化を継承していくための実践的研究に取り組んだ。具体的には、5月に浜松市立篠原小学校3年生の総合科目においてサウンドエデュケーションの手法を援用しつつ、地域の環境文化としての海鳴り・波小僧伝承に関する講義を行った。また10月には小学校区の浜辺をフィールドとして、地域の親子3組と大人1名を対象としたワークショップ「音さんぽ」を、音風景研究家の岩田茉莉江氏に協力いただいて実施した。またこの活動には地域の歴史グループ「浜風会」の協力も得た。これらの実践的研究の成果を日本音楽教育メディア学会で報告した。 年度末には、本研究課題全体の成果をまとめるための研究会を実施し、今後の課題の洗い直しと同時に、書籍化へむけた知見の整理を行った。
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