研究課題/領域番号 |
20K02175
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研究機関 | 大阪国際大学 |
研究代表者 |
中村 浩子 大阪国際大学, 人間科学部, 教授 (00441113)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 排外主義 / 新自由主義 / モスク銃乱射テロ事件 / ニュージーランド / 包摂性 / 高等学校 / 若者 |
研究実績の概要 |
本研究は、二文化主義と多文化主義の葛藤を抱える中、新自由主義的政策を推進してきたニュージーランドをフィールドに、2019年のモスク銃乱射テロ事件後に展開された反排外主義の取組みや運動の背景と条件を解明することを目的としている。 2023年度に実施したのは、①前年度に実施した調査の結果分析及び成果公表と、②モスク銃乱射事件後に展開された反排外主義運動の背景に関する調査、の2つである。 ①2023年2月にオークランドの高等学校で実施させて頂いた生徒対象インタビュー調査の結果をもとに、若者たちが反排外主義的運動に参加する目的や理由、背景について分析を行った。具体的には、同校で展開された反排外主義的動画製作キャンペーンの参加生徒に対するインタビュー調査と、その他在籍生徒対象アンケート調査から、どのような背景の若者たちが何を求めて運動に参加し、どのような成果を得たのか、また教師や他生徒等誰からどのような支援を受けたか、そして生徒たちは運動の意義をどのように見出しているか等を明らかにし、英文報告書にまとめた。 ②2023年8月、銃乱射テロ事件後にクライストチャーチで顕著に示された反排外主義的文化の背景について調査を行った。具体的には、カンタベリー大地震後に新自由主義的制度の弊害を克服すべく同地域で構築されてきたとされる包摂的な学校教育制度と、そうしたインフラの上に展開されてきている高等学校の生徒の認識について、学校関係者、学校長、高校生を対象とするインタビュー調査を実施させて頂いた。結果、震災後の復興過程で、新自由主義の弊害即ち学校間競争による著しい学校間格差を是正すべく地域内公立学校が連携して構築した在籍者数管理の制度が、各学校内における多様性を促進し、地域全体の包摂性を高めた可能性について明らかにし、日本社会学会で英語発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「反排外主義」と捉えられる運動や諸実践の実態と背景について解明することを目的に、2019年にニュージーランドで発生したモスク銃乱射テロ事件後、同国で展開された排外主義に抗う政府の取組みや、若者・市民・諸団体の実践について、当事者への聞き取り・インタビュー調査から明らかにすることを当初から計画していた。 コロナ禍により研究の進捗が困難な時期が続いたが、2022年度末から2023年度には当初計画において想定していた調査を実施に移し、大幅に進めることができた。具体的には、オークランドの高校における反排外主義的運動に着目し、同校生徒へのインタビュー調査を 2022年度末に実施したことを受け、結果の分析及び公表を行った。またモスク銃乱射事件後の反排外主義運動の背景について、クライストチャーチの学校関係者及び生徒たちにインタビュー調査を実施し、結果について学会発表を行った。調査全体の進行、結果分析、公表は当初研究計画からは遅れているものの、2023年度中に、上述した英文報告書の公表と学会発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで本研究では、当初計画のうち、「二文化・多文化主義間の葛藤を孕み新自由主義の制度的環境を有するニュージーランドで、誰がなぜ、どのような認識で、いかなる条件の下にどう反排外主義の流れに参与しているのか」という問いについて研究を進めてきた。具体的には、反排外主義の運動において存在感を高めてきた高校生の実践や認識に焦点を当てて調査を行ってきた。 本研究において残されているのは、反排外主義の流れを公的機関はどう関与及びファシリテートしているのか、を明らかにすることである。部分的に聞き取り調査はこれまでも行ってきているが、今後は公的機関が関与する事例について調査を実施し、排外主義に抗うことを目的とした公的機関の諸実践や課題について明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス流行の影響により現地調査の実施が不可能な期間があったため、研究計画を見直し、補助事業期間を延長した。2024年度には、本研究当初計画に掲げた問いのうち、残されている課題について明らかにすべく調査を実施することを予定している。このため2024年度使用額が発生している。
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