研究課題/領域番号 |
20K02179
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
井上 信宏 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (40303440)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地域福祉 / 持続可能 / ナラティブ |
研究実績の概要 |
▼本研究は,中山間地や地方都市において持続可能な地域福祉の推進モデルを構築することが目的である。本研究では,主に長野県下の市町村を調査地として選定し,①調査地の地域福祉を支えてきたリーダー層の〈地域のナラティブ〉に注目しそれを可視化・類型化し,②調査地の地域福祉を支援してきた社協職員や行政職員,専門職の具体的な支援方法と〈地域のナラティブ〉の関係を明らかにし,当該地域における地域福祉推進の目的共有のプロセスの類型化を行い,③地域住民-社協・行政職員-専門職といった多様な主体が地域福祉推進に向けた協働関係を構築するアプローチのモデル化を試みる。 ▼しかし本研究の申請時とは異なり,2020年度はCOVID-19感染症に伴いフィールドワークを実施することが困難となったため,研究の推進方策と研究計画を見直す作業を行なった。 ▼これまでの地域福祉活動に対してCOVID-19がもたらす影響は極めて大きいことから,地域の専門職を対象にZoomを用いた聞き取りを行ない,感染症対策下で見えてきた地域住民の不安や地域課題とそれへの対応(対応の困難)を訊ねた。その結果,地域住民の二極分化が起こっていること(地域活動を継続することを望む者と感染症が落ち着くまで地域活動を控えるべきだという者),継続的な在宅支援が必要となる高齢者の多くが引きこもりがちで,地域活動への参加が見送られがちであることが見えてきた。 ▼地域のリーダー層へのヒアリングからは,見守りが必要な高齢者を中心に引きこもりの傾向が強くなると共に,個別ケースの地域課題が不可視化される傾向にあることがわかった。そうしたなかで,リーダー層には,これまでの地域活動を見直す意志が強くなり,COVID-19の先を見据えた地域福祉を今から考えるべきだという志向が確認されることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
▼「やや遅れている」理由は,COVID-19感染症に伴いフィールドワークの実施が困難となり,研究の推進方策と研究計画を見直す必要が生じたためである。 ▼当初予定では,地域福祉を支えてきたリーダー層の〈地域のナラティブ〉をヒアリングを通じて収集する予定であった。しかし,COVIB-19に伴いフィールドワークの実施が困難となったために研究の推進方策を見直し,感染症対策下で専門職や地域住民のリーダー層が新たにどのような地域課題に直面することになったのか。その解決の方策を探るなかで,これまでの地域福祉の推進に向けた取り組みをどのように反省し,COVID-19感染症後の地域社会を視野に入れてどのような行動を起こそうとしているのか,アクションリサーチの手法を用いて調査を行うことにした。 ▼その結果,松本市Jo地区,松本市Si地区,伊那市については,アクションリサーチによる当事者との取り組みを通じて,当初の研究対象であるリーダー層や行政職員・社協職員・専門職と具体的な地域課題の解決に向けた取り組みを行いながら,彼らの行動やその背景にある考え方などを事前ヒアリングする機会を持つことができた。 ▼その過程でZoomを用いて遠隔地の専門職やリーダー層と意見交換をするなかで,中山間地域の地域福祉活動への支援を行うコミュニティ・ソーシャルワーカー(CSW)の多くが,一人で活動しており,活動上のサポートが得られない状況にあることがわかったので,担当自治体を超えてCSWがネットワークを組むことができる組織を作ることになった。この組織は,中山間地域を調査対象とする専門職を中心に,本研究のオリジナルデータを収集するためのプラットフォームにもなる。現在このプラットフォームには,安曇野市・上田市・松本市の専門職が参加しているが,今後は,上田市,朝日村,長和町,長野市などのCSWにも声をかける予定である。
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今後の研究の推進方策 |
▼本研究の今後の推進方策は,COVID-19感染症対策のもとで見直したように,a)地域福祉を支えてきたリーダー層の〈地域のナラティブ〉のデータ収集と,b)それを支援してきた社協や行政の職員,専門職による特徴的な支援方法のデータ収集を,①研究者がCOVID-19感染症対策下での取り組みに協働できる自治体や地域についてはアクションリサーチの方法を用いる,②中山間地域を中心とするひとり働きのCSWや町村のリーダー層については自治体を超えてネットワークを組むことで日頃の活動へのピアサポートを合わせて実施しながら,当面の間は,オリジナルデータの収集に努めることとする。そうした作業には,2021年度に導入したように,Zoom等の遠隔手段によるヒアリングを積極的に行うことにする。 ▼但し,COVID-19感染症対策は2021年度も継続すると思われるので,現状のままだと現地調査の実施が難しいことが予想される。そこで,フィールドワークとは別に,本研究の理論的背景を整理する研究を手がけることにする。「生活支援」「生活福祉」という概念の整理が該当することになるが,いずれも多義的な概念である上に,それはすでに社会福祉サービスとして実態的に展開されている。これらの概念や取り組み実態の系譜をたどりながら,理論的な整理を行ないたい。 ▼また,COVID-19感染症対策下における地域福祉の当事者らへのヒアリングから見えてきたように,地域住民のリーダー層や専門職のなかには,近い将来を見据えた地域福祉を予想しながら,現在の支援の組織化を志向する特徴が強くなっていた。そこで,未来志向の社会福祉学,なかんづくフューチャー・デザインを視野に入れた地域組織化の可能性について理論仮説を構築し,未来志向のコミュニティ・ソーシャルワークを考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
▼COVID-19感染症に伴いフィールドワークの実施が困難となり,研究の推進方策と研究計画を見直すことになった。そのために,当初予想以上の次年度使用額が生じることになった。 ▼その一つは,初年度に購入予定であったパソコンなどの物品費である。これについては,見直した研究の推進方策に合わせてパソコン等の機種選定を行う必要がでたことから,購入を1年間先送りすることにした。2021年度以降もZoom等による遠隔調査が常態化することが見込まれるので,2021年度にはそれに対応できるパソコンとそれに関する環境整備を計画的に実施することとする。 ▼もう一つは,旅費である。これについては,今後も感染症予防を視野に入れながら,執行可能な社会状況になれば,先送りとなっていた現地調査を実施することにしたい。
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