研究課題/領域番号 |
20K02190
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
笠原 千絵 上智大学, 総合人間科学部, 准教授 (60434966)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インクルーシブリサーチ / 知的障害 / 障害福祉計画 / 地域福祉計画 / 本人活動グループ / 協働 / 社会的排除 / インクルージョン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、知的障害者の立場からとらえた地域の実態および、福祉計画策定過程における参加の方法と課題を明らかにすることであり、「地域生活を指向する障害福祉政策は社会的包摂をもたらしたか」「知的障害者を真に市民の一員として包摂しようとしているか」という2つの問を立てている。初年度の2020年度は、先行研究の検討とインクルーシブリサーチの実施に向けた準備を行った。 第1に、知的障害者による地域生活のとらえ方に関する文献研究では、インクルージョンの成果として強調される一般サービスの利用や、非障害者との関係には肯定的評価とあわせて否定的評価もあり、知的障害者同士の関係、経済的価値で評価できない貢献、安心して過ごせる居場所の重要性等が示唆された。成果は2021年度に論文にまとめる予定である。 第2に、倫理委員会の受審では、留意事項付きで承認が得られた。留意事項には「簡便でストレスのない同意撤回方法」や「時間的拘束等による身体的、精神的負担の軽減」の検討のように、調査協力者である知的障害者の負担を軽減するための助言的なものと、「対象者の知的レベルの判定基準」や「保護者から一律に同意書を得る必要性」の検討のように、障害のとらえ方や主体の位置づけに関するコメントがあった。意見については2019年度英国ESRC助成、インクルーシブリサーチに関する日英共同研究の英国メンバーにメールで助言を得た上修正し、倫理委員会より研究開始の承諾を得た。研究遂行に応じて新たな倫理的課題が生じる可能性があるため、調査終了後に考察の上論文にまとめる予定である。 第3に、調査実施に協力が得られる地域の絞り込みを行った。新型コロナウィルス感染拡大に伴う移動自粛、後述する対面実施の必要性より、代表者が在住する首都圏において2地域を選定し、関係者に協力を打診した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の研究計画では、(1)知的障害者本人が撮影した身近な暮らしの写真をもとに話し合うフォトボイス、(2)生活圏内を移動しながら行う移動インタビュー、(3)障害福祉計画、地域福祉計画に関する話し合いを実施し、その後(1)~(3)の結果をふまえ、(4)障害のある人とない人との話し合い、(5)福祉計画策定の場や協議の場への報告の機会という5つの調査活動を、研究協力機関である知的障害のある本人活動グループメンバーとともに実施、分析、発表する予定であった。 しかし、新型コロナウィルス感染蔓延の影響により調査計画が大幅に遅れ、見直しが必要となっている。第1に、日常生活を支える基盤となる福祉サービスの利用にも制約が伴い、日常生活の継続が脅かされる障害者が数多くいる状況下、対面や外出を前提とする調査の優先順位は低く、協力を依頼、実施することが困難であった。第2に、研究協力機関である本人活動グループの活動が年間を通して停止となり、活動拠点としていた場所も利用不可となった。第3に、この間急速に普及したzoom等オンラインでの活動継続を検討したが、通信機器や環境が整わない、通信機器の利用に抵抗がある、あるいは対面での実施を強く希望するメンバーがいるため、対面から置き換えて実施するには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
インクルーシブリサーチは、研究の計画からデータ収集、分析、まとめ、公表にいたる全てのプロセスを知的障害者との協働によって行うことに特徴がある。しかし、上述した状況および感染収束見通しからは、研究期間内に調査活動(1)~(5)全てを協働により行うことは困難である。そのため、研究協力機関である本人活動グループとも協議の上、協働が難しい部分については研究者中心で調査を進め、適宜本人たちから助言を得るという「助言型」のインクルーシブリサーチとして実施したい。 第1に、本人活動グループと行う調査は当面、人との接触が比較的少ない(3)福祉計画の検討に焦点化し、2021年度内にデータ収集および分析の目途をつけることを目指す。Web会議システムにより参加が可能な人もいるため、適宜取り入れる。 第2に、知的障害のある人から地域での暮らしに関するデータを集める(1)フォトボイス、(2)移動インタビューに関しては、実施場所は調査協力者の居住地域周辺であり、市区、都県をまたぐ移動がないことから、感染リスクに十分に配慮した形で遂行が可能と考える。具体的には感染抑制が多少期待される夏季の実施に向け、2021年5月~7月に、対象地域の障害福祉サービス事業所、支援者を対象とした説明会をzoom等web会議システムを利用して実施し、協力者を募る。本人活動グループメンバーが、自分たちでインタビューすることを希望しているため、状況に応じて可能な範囲で一緒に行う。 第3に、(1)~(3)の結果をふまえた(4)、(5)の実施については、研究期間の延長も含めて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、対面による調査活動の遂行が難しく、旅費、人件費、会議費のいずれも執行する機会がなかった。 2021年度はWeb会議システムの実施環境整備の可能性を再度検討し、あわせて対面での調査を実施する。イギリス、オープン大学の Social History of Learning Disability (SHLD) Research Groupが実施するインクルーシブリサーチに関する年次大会に参加予定であったが、オンライン開催に変更となった。今後も渡航に対するめどが立たず、オンライン参加であれば渡航費もかからないため、2022年度を含め複数回の参加を検討する。 いずれにしても、旅費および人件費(特に知的障害者への合理的配慮としてのガイドヘルプ)の支出が大幅に少なくなる見込みであるため、知的障害者にとっての合理的配慮の一つである分かりやすさに配慮した資料や冊子の作成の費用に充てる。
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