研究課題/領域番号 |
20K02200
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
朴 光駿 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (30351307)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 就労型貧困政策 / 扶貧政策 / 勤労連携福祉 / 自活事業 |
研究実績の概要 |
本研究は「就労型貧困政策」に関する東アジア比較研究である。特に2020年まで全国民の脱貧困を目指し、全政府部署がその主体になって推し進めている大規模の貧困政策である中国の「扶貧政策」については、日本での学術研究が極めて乏しいため、まずその全容を明らかにすることを重要な研究目標とする。本研究は日・中・韓の貧困政策の内容・成果・課題について比較分析を行うが、中国と韓国の就労支援政策については、救貧事業現場への訪問調査と専門家聞き取り調査を併用する。しかし、2020年度に続き2021年度もコロナの影響によって、韓国と中国の就労型貧困事業の現地調査と専門家面談が全く実現できなくなったので、政府文書と統計、関連法律、論文などを対象とする文献研究に集中した。 中国の就労型貧困政策については、「扶貧政策」の歴史的発展過程と内容、貧困率の変化、貧困事業の評価と評価指標などを詳細に把握した。特に扶貧政策と、既存の最低生活保障制度との違いを明確にし、国家政策に占める扶貧政策の位置付けを行なった。また扶貧政策には「数字目標が明記された事業目標」が定められていることをその重要な特徴として捉え、数値目標の設定、目標達成のための政策開発、事業評価過程を明確にした。 韓国の就労事業については、「自活事業」を中心に、その制度化過程を明らかにした。1990年代に現れた低成長・高失業によって労働市場から排除された低賃金貧困層を対象により良い仕事先を提供するために進められた生産共同体運動が自活事業の実際的出発点であることを確認した。韓国自活事業については、韓国地域自活センターや関連研究者たちとZOOM会議などを通して協議し、2022年8月には訪問調査を行うこと、その前の5月・6月にはそのための打ち合わせを韓国で行うことを決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は文献分析を基本としつつ、主に現地調査と専門家面談調査を通して、日中韓の就労型貧困政策の実態を明らかにすることである。ところが、2020年度と2021年度にはコロナの影響によって韓国・中国への現地調査と面談調査が全面的に中止されたことによって、全体的に研究が遅れている。 このような状況に対応し、研究方法の変更を含めた研究計画の修正を行なってきた。例えば、中国の貧困政策については、現地調査の実施が当分の間、不可能であると判断し、専門研究者を中心とした間接的調査を目指し、研究計画を修正して専門家調査のための文案作りを行なっている。具体的には貧困政策に関する科研責任者の中国語ペーパーを提示し、それに対する専門研究者の意見を収集するという研究方法である。日中韓の社会政策学者たちが参加する「第16回東アジアフォーラム」(2022年8月末、中国征服大学開催予定)に参加する中国研究者を主な対象とする。ただし、政府文書、関連法令や各地方の条例、研究論文などを対象とした文献研究の部分は、予定通りに進んでいる。 韓国の就労型貧困政策についても、メールやZOOMを介した情報の収集・意見交換を行なっているものの現地調査や聞き取り調査ができない状態が続いている。ただし、韓国では2022年4月からは研究のための研究機関の訪問、自活事業所の訪問が許されるようになっており、関連自活期間からは本研究のための現地訪問調査を受け入れるとの許諾を受けている。
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今後の研究の推進方策 |
韓国と中国の就労型貧困政策について行なってきた文献研究をまとめ、学会誌・学術雑誌を通して研究発表を進める。特に日本では中国扶貧政策に関する学術情報が乏しい現状を鑑み、中国扶貧政策関連研究の発表を優先的に進める。 2022年度には現地調査と専門家を対象とした聞き取り調査を中心に研究を進め、今までの文献研究を総合化する作業を進める。韓国の就労型貧困政策については、2022年度8月から現地調査を行うことにしている。2022年5月4日済州特別自治道広域自活センターを訪問し、8月調査の許諾を受け、地域自活センターの訪問調査のための打ち合わせを行った。これから8月の訪問調査のための準備を行う。済州地域の地域自活事業の事例については、最低2箇所の訪問調査を計画している。 中国のコロナ状況と、第3者の受け入れ制限は極めて厳しく、今のところ就労型貧困政策現場に対する訪問調査は不可能になる可能性が高いと見ている。そのために、現地調査の代わりに2つの研究方法を進めることにしたい。第一は、貧困政策に関する本研究責任者のペーパーを中国語訳した上、関連研究者に配布し、それに対する意見を収集することで、中国貧困政策についての間接的資料として研究に活用していく方法である。そのためのペーパー中国語訳はすでに進行中にある。中国語訳の作業は、中国チベット民族大学法学院の教員、馮怡氏(佛教大学博士課程修了者)に依頼している。第二の方法は、中国社会科学院の貧困専門の研究員を招聘し、日本あるいは韓国で研究交流の場を設け、面談調査を実施する方法である。このことについては、現在、中国社会科学院の人口・労働経済研究所の研究員と協議を行っているところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度および2021年度に計画されていた韓国・中国への現地調査とそのための海外出張ができなくなったことによって、旅費が実行できなかったために、多額の研究費が執行できなかった。 2022年度からは少なくとも韓国に対しては8月前後から現地調査が可能になり、研究費の執行が可能になる。中国に対しても研究方法の修正により、現地調査に代わる新しい研究方法によって研究費の執行が可能になると予測される。
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