「公害の原点」といわれる水俣病は、1956年の公式確認から67年が過ぎ、胎児性・小児性水俣病患者たちは高齢化が進み、これからの生活をどう送るかが課題となっている。その間、胎児性・小児性水俣病患者たちの苦難の生活実態を知ることができる資料は少なく、水俣病第一次訴訟以後、彼らの自立運動・生活史に関して記述されたものも極めて少ない。そのことが胎児性・小児性水俣病患者の経験と苦難への無理解につながり、本人主体の生活を阻んでいる可能性は否定できない。 彼らが尊厳をもった生活を送れる環境の構築をめざすには、本人の主体的な選択を尊重することが必要である。そのためには、当事者のこれまでの人生史を把握し、彼/彼女らが現在求めている生活を理解することが不可欠である。 申請者は2000年以来、胎児性・小児性水俣病患者の研究に取り組んでいるが、これまでに得た資料・情報は、表面的なことにすぎず、当事者の自立を求める運動や生活史を理解するには不十分であることがわかった。そこで、彼らの生活史に、具体的にだれが、どのようにかかわり、どのような支援活動が始まったのか、その具体的活動内容、支援にかかわった人々、支援内容を把握することを課題として、当事者、高齢化している家族や支援者、長年関わっているソーシャルワーカーたちから、ヒアリングや資料の収集・分析を行うこととした。 本年度は、遅れを生じていた当事者および支援者への最終的な確認と新潟調査を行い、胎児性・小児性水俣病患者の水俣病第一次訴訟以降の自立のための運動と生活史に関するこれまで蒐集した資料を整理し、時代区分した自立運動の軌跡を作成した。胎児性・小児性水俣病患者の自立のための運動・生活史・調査を通して、介護が必要になっても、近親者の保護下でなく、自らが選択した介護などによって生活を送ることが本人主体の生活につながることが、一部ではあるが明らかになった。
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