研究課題/領域番号 |
20K02229
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研究機関 | 国立社会保障・人口問題研究所 |
研究代表者 |
小島 克久 国立社会保障・人口問題研究所, 情報調査分析部, 部長 (80415819)
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研究分担者 |
金 貞任 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (00364696)
沈 潔 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (20305808)
于 洋 城西大学, 現代政策学部, 教授 (60386521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢者介護 / 介護制度 / 東アジア / 国際比較 / 高齢化対策 / 中国 / 韓国 / 台湾 |
研究実績の概要 |
令和4年度は,①東アジアの介護制度の多様性の把握とその背景分析(当初計画)、②新型コロナウイルス感染症への介護制度での対応の分析(追加計画)について、研究を継続した。 ①として、介護制度の構成要素のうち、介護サービス提供について、わが国と中国、韓国、台湾の比較を行った。居宅、地域密着、施設ケアが提供されるわが国に対して、韓国は通所リハや老健施設の医療系ケアや小規模多機能などは制度化されていない。台湾は介護予防リハや老健施設などの医療系ケアが制度化されていない。中国は、介護サービスの細分化が不十分であること、その背景に医療制度との関係や医療的ケアを介護制度に含める認識が不十分なことを明らかにした。一方、台湾では、移送、配食、レスパイトケア、介護相談などが介護サービスに含まれて、家族も支援するという考え方がわが国よりも強いことを明らかにした。 医療と介護の連携として、制度が分かれている韓国、地方政府に任せることで多様な「医養結合」の取り組みを進めた中国、地域での取り組みが重視される台湾という特徴を明らかにした。わが国は、国、地方、医療・介護事業者とそれぞれの役割が明確な形で政策を進める一方、医療と介護をどのように取り組むかの政策的なスタンスの違いを明らかにした。このような違いの背景には、介護制度を構築するにあたっての政策決定の仕組みや調整プロセスの違いがあること。それが民間部門の役割を左右するのではと言う仮説に至った。 ②として、介護制度への影響の分析を継続した。特に台湾では、感染急拡大の一方、医療インフラ確保、ワクチン接種が進み、介護事業所への規制(来訪者制限や利用者・スタッフの感染予防など)も緩和の方向に転じた。そのため、介護サービス利用は概ね順調に推移した。しかし、受け入れを一時停止した外国人介護労働者は大きく減少し、その影響の地域差があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症の世界的な蔓延のため、当初計画の海外出張、学会の対面での参加がこれまでほとんどできなかった。しかし、令和4年度の終わりからは、韓国からの来訪者への対応など、対面での意見交換再開に至った。その一方で、各国・地域における介護制度の動きについては、オンラインで公開の公的資料、オンライン会議での意見交換により把握可能な状態にあった。こうした機会を積極的に活用した。これにより、台湾での介護給付の改正、地域密着や医療と介護の連携の取り組み、中国での医療と介護の連携、韓国の新しい地域密着の介護システムの試みに関する詳細分析ができた。 各国・地域の違いが出やすい介護サービス提供にエフォートの重点を置いたため、これが東アジアの介護制度の多様性の背景のより深い理解につながった。現地調査が必要な介護サービス提供の現状把握については課題があるが、オンライン、一部再開できた対面での意見交換により現地調査ができない状態をカバーができた。 また、新型コロナの介護制度への影響として、台湾での外国人介護労働者への影響が大きかったこと、その地域差として、外国人人口割合や外国人介護労働者の活用の程度などを要因として明らかにすることができた。パンデミックが介護制度のどの側面に影響を与えやすいかは、各国・地域の介護制度の内容に左右される面があるという知見に至った。ここでも東アジアの介護制度の多様性の研究の一環としての分析につながった。 その結果、新型コロナ感染症拡大の影響を最小限に抑えて順調に研究を進め、東アジアの介護制度の多様性の背景の考察を深めることができた。これは、令和5年度に予定している、「東アジアの介護制度が多様性の背景を東アジアの福祉レジームの多様性を内包する形での構築を試み」につながるものと考えている。よって、「本研究はおおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、新型コロナ感染症の動向およびアフターコロナの社会の動きを注視しつつ、応募段階での研究計画にあった、「東アジアの介護制度が多様である背景のまとめ」を試みる。東アジアではわが国の介護制度の仕組みやその構築や運営の経験に大きな関心がある。しかし、実際には各国・地域で介護制度の内容は大きく異なる。その背景には、制度や介護サービス提供体制への理解、評価が異なることがある。それに加えて、各国・地域固有の背景として、それぞれの介護制度の発展の経緯もある。そして、それらをもたらした背景の仮説として立てた「介護制度を構築する政策プロセスの違い」もあると考えられる。このような令和4年度までに至った知見をもとに、この仮説を検証しながら、上記のまとめの試みを進める。当初計画にあった、民間部門の活用やインフォーマルケアの役割にも焦点を置く。それにより、東アジアでわが国の介護制度の関心が高い中で、制度が多様化する理由を明確にすることで、「東アジアの社会福祉レジームの多様性」という性格が内包される理論的根拠に関する知見を示すことを目指す。 研究は引き続き研究班メンバーで行う他、国内外からの研究協力を得る。国内では郭芳(同志社大学助教)、江秀華(城西短期大学准教授)らの研究協力を得る。海外では13で記載の共同研究の機関、特に、万琳静(西安交通大学助理教授)らの研究協力を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究班メンバーは、この研究事業の一環として中国や韓国などへの出張を予定していた。一部再開できた出張がある一方、新型コロナ感染症の影響で、昨年度も海外出張や対面での会議参加の一部が中止となり、旅費執行の多くを順延せざるを得なかった。一方で研究班メンバーは、オンライン方式で国内外の学会等に参加した。昨年度はオンラインやハイブリッド開催でも参加費を徴収する学会もではじめたが、学会参加費も想定以上に執行が少なかった。資料整理用のアルバイトも、雇用が想定より執行が控えられた。さらに、昨今の国際情勢などを背景に、PC周辺機器などの物品の価格も高騰し、執行を検討せざるを得なかった。このような事情による支出の見送りが生じたことなどのため、次年度使用額が生じた。 (次年度計画)令和5年度は、新型コロナ感染症およびアフターコロナの社会の動向を踏まえつつ、8で述べた研究成果の精緻化を目指した研究費の執行を計画している。具体的には、国内外の学会の参加を予定している。特に、国外での学会が対面方式での再開や現地調査の再開を想定している。一方、オンライン方式の会議も普及しており、会議に必要なソフトウェアのライセンスの更新料も想定される。オンライン会議を円滑に行うための、自動追尾機能付きのweb会議機器、記録保存用のSSDの購入も想定される。これらは、次年度使用額を活用して支出する予定である。
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