研究課題/領域番号 |
20K02251
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研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
麦倉 泰子 関東学院大学, 社会学部, 教授 (60386464)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 意思決定支援 / ダイレクト・ペイメント / 権利擁護 / 遷延性意識障害 |
研究実績の概要 |
本研究は、障害のある人の意思決定に必要な支援施策について、日本とイギリスの比較を通して具体的に提示することを目的としている。本年度はイギリスと日本での意思決定を支える仕組みについて研究を行った。 研究の具体的な内容としては、イギリスに関しては個別的支援の制度の鍵となるダイレクト・ペイメント(直接支払い)の管理方法のガイドラインについて研究を行った。 このガイドラインの特長は、ダイレクト・ペイメントを受けるかどうかについての本人の意思決定について、最大限の範囲で認め、権利擁護を行うよう設計されている点である。このガイドラインでは、意思能力法(2005)の方針に基づき、16歳以上の人は、能力が欠けていると評価されない限り、ダイレクト・ペイメントの実施について決定する能力を有していると推定しなければならない、としている。 スタッフの雇用やサービスの購入のためのダイレクト・ペイメントの利用にあたっては、雇用主となることの経験の不足が不利益につながらないように、支援を行うべきことが明記されている。スタッフの採用に当たっては、身元の確認を行うために、DBS (Disclosure and Barring Service) 「無犯罪証明書」の提出を求めることで、安全の保護を行っていることが分かった。 日本での意思決定に関する研究としては、意思決定において大きな支援が必要な遷延性意識障害者に対する支援制度の拡充の歴史について、文献情報を収集した。 この研究の意義は、医療的ケアを必要とする重度の障害のある人であっても、個別的支援(パーソナル・アシスタンス)を行うことで、自律的な暮らしを送ることができるようにする仕組みの具体的な内容が分かったことである。現金の管理や人の雇用、サービスの契約、権利侵害のリスクを減少させるための仕組みを現実的に示すことができたところに、本研究の重要性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症のため、インタビュー調査や文献収集のための出張が制限されたことによるもの。文献収集によって得られたデータの分析が主になった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、意思決定支援と個別予算について日本とイギリスの比較研究を行う。権利擁護に関する取り組みとして意思決定支援に関するイギリスと日本の比較調査を行う。 日本の状況に適合する「日本型パーソナル・バジェット・システム」を開発するために、イギリスと日本の関連資料を収集し、比較検討を行う。質的調査用のソフトであるNVIVOを利用して収集した文献の言説分析を行う。加えて、財政上の資料を用いてSPSSによる統計的な分析を行い、イギリスと日本の予算とサービス利用者の生活の質の向上との関連性について検証を行う。 新型コロナウイルス感染症の収束の状況を見極めながら、イギリスと日本で主に知的障害のある人を対象とする意思決定支援の仕組みと普及に関して活動を行っている組織を対象に聞き取り調査を行う。 その上で、イギリスおよび日本で権利擁護の活動を行っている組織を対象に聞き取り調査を行う。日本においては、関連団体に質問紙調査を行い、意思決定支援の実施状況と普及の促進要因および阻害要因について分析を行う。 イギリス意思能力法Mental Capacity Act 2005と日本の成年後見制度の比較を行い、判断能力の評価方法、判断能力の評価プロセスの体系化を行う。その上で、社会的包摂へ向かうための意思決定支援と権利擁護の仕組みを日本の障害者福祉の文脈で実現可能なものとする新しい制度改革のアイデアを提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症により、聞き取り調査の実施が困難となり、出張費を使用しなかったために次年度使用額が生じた。感染症の収束を見極めながら、未実施の聞き取り調査および研究成果の発表を行っていく予定である。
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