研究課題/領域番号 |
20K02320
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
上野 茂昭 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (80410223)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パン生地 / 誘電特性 / デンプン / 水分子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,パン生地中のグルテンタンパク質,デンプンと水分子がつくる水和構造に着目し,誘電分光法で水和を定量的な情報として扱うとともに力学特性計測を行い,種々の配合材料・割合も評価可能な汎用的なパン生地品質の非破壊モニタリング法を開発することである.製パン工程は,ミキシング,発酵,仕上げ,最終発酵,焼成に大別され,各工程における品質は,小麦粉,酵母,食塩,水などの材料,ミキシング条件,温湿度等,多岐にわたる要素の影響を受ける.そのため,安定した生地に仕上げるためには,ミキシング工程におけるリアルタイム品質評価が必須である.しかし実際には材料の配合割合やミキシング条件をもとに製造し,熟練職人が手でパン生地を触り,軟らかさなどを感覚的に直接評価する方法,またはミキシング音で品質を判断するなど,熟練職人の経験に依存する部分が多い.パン生地はデンプン,グルテンネットワークに水分子が水和し,酵母や塩が分散した構造が特徴的であり,また成分同士が相互作用をしている.そのため,パン生地の品質を評価するためには,X線回折法によるデンプンの結晶構造解析,核磁気共鳴画像法による水分子の分布解析,蛍光顕微鏡によるグルテンネットワークの観察など,高額装置の複数使用が不可欠であり,観察や解析に多くの時間を要する. 本研究ではパン生地の内部構造・成分変化を定量的に明らかにするためにベクトル・ネットワーク・アナライザを用いて,パン生地中の水分子の回転運動特性(誘電率,回転緩和時間,緩和強度)を測定するとともに,パン生地内部構造の電子顕微鏡観察を行うことにより,内部構造変化を定量定性的に評価する手法を開発する.本年度は,ベクトル・ネットワーク・アナライザを用いた評価系の構築を行うとともに,パン生地の力学特性評価系を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
主に小麦粉と水で構成されるパン生地の物性は,主成分であるデンプンやグルテンタンパク質の影響を強く受けるが,それらを制御する因子は水分子であるため,水分子の挙動を把握することで,パン生地の品質を予測可能ではないかと考えた.本年度は,既設装置であるベクトル・ネットワーク・アナライザ,レオメータを用いて,パン生地の誘電特性および力学特性を計測するためのプローブ・ケーブルを設計するとともに,パン生地をクリープ解析可能な測定系を設計した.プローブの測定深度は,最大で1mm程度で製パン工程において,熟練職人が手のひらで生地を触る感覚の深度と相違ないことを確認済である.パン生地のクリープ解析においては,圧縮試験および引張試験を検討した上で,パン生地の密度の制御がより簡便である引張試験を採用した.
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今後の研究の推進方策 |
ベクトル・ネットワーク・アナライザを用いて,パン生地の誘電特性とりわけ水分子ーデンプン分子,水分子ータンパク質などにおける相互関係に関するデータの蓄積を行ってきた.得られた周波数-誘電特性(強度等)におけるスペクトルに対し,数値解析ソフトウエアを用いることにより,フーリエ解析を適用する.スペクトルを実数部および虚数部に分けて解析を行うことにより,それぞれのスペクトルの緩和時間等を算出する.他方,パン生地の力学特性を行う.力学特性の計測に際しては,所属研究室に既設のレオメータを用いることにより,弾性率,緩和時間などの測定および解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響により,本研究課題に要する研究補助者の勤務時間の確保が困難であったこと,また同影響により国内外への出張が大きく制限を受けたため,次年度使用額として計上した.次年度は,研究補助者の勤務時間を確保するとともに,必要に応じて国内外に対し可能な範囲で研究発表を行うことにより,研究成果の公開に努める予定である.
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