研究課題/領域番号 |
20K02320
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
上野 茂昭 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (80410223)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パン生地 / 小麦粉 / 誘電特性 / 力学特性 |
研究実績の概要 |
本研究では,小麦粉,塩ならびに水を用いて,含水率(5条件)と混捏時間(4条件)を変化させたパン生地を調製し試料とした.試料の誘電スペクトルを,ネットワークアナライザおよび電極を用いて,周波数100 MHzから20 GHzにおいて測定し,得られたスペクトルに対してフーリエ変換等を行うことにより,複数のスペクトルに分離した.低周波側および高周波側に生じる,単一の誘電緩和を示す誘電スペクトルから,誘電緩和時間,誘電緩和強度等を推算することにより誘電緩和パラメータを得た. 他方,誘電スペクトルを得た試料を用いて,レオメータによる引っ張り試験を行うことにより,力学緩和曲線および引っ張り試験パラメータを得た.さらに力学緩和曲線から,力学緩和時間,力学緩和強度などの力学緩和パラメータを得た.得られた力学緩和パラメータについて,試料含水率,力学緩和時間ならびに力学緩和強度で整理したところ,低含水率試料ほど特徴的な解析結果を示した.混捏時間を変化させた試料の力学緩和パラメータは,含水率を変化させた試料のような特徴的な傾向は認められなかった. 混捏後の経過時間が誘電スペクトルおよび力学特性に及ぼす影響について検討した.試料は簡易型密封容器に封入し,30分間隔でそれぞれの特性を評価した.その結果,誘電スペクトルおよび力学特性については,経過時間による影響は認められなかった. 以上の実験で得られた誘電緩和パラメータおよび力学緩和パラメータについて,相互関連性を検討した.その結果,含水率を変化させた試料は,混捏条件を変化させた試料に比べて,より多くのパラメータ間で相関関係が認められた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パン生地の誘電緩和を解析するために,ネットワークアナライザを用いている.ネットワークアナライザによる試料の誘電スペクトルの測定に先んじて,超純水,空気ならびにエチレングリコールを用いて,特定温度における既知の誘電特性値(文献値)から,電極・同軸ケーブルならびにネットワークアナライザを含めた装置一式の校正を行っている.誘電スペクトルの解析において,解析結果の不安定さ並びに,解析が不可能な事象が頻発することが分かった.原因を究明するために,電極の洗浄,校正液の再調整等を行ったものの,解析結果の不安定性ならびに解析の不具合は修正できなかった.本研究の校正では,測定時の温度および超純水,空気ならびにエチレングリコールの文献値を用いている.校正時に用いるエチレングリコールの文献値について,ある温度領域および周波数帯において,実測値と計算値が乖離することが分かった.また,ネットワークアナライザに同軸ケーブルおよび電極プローブを装着し,パン生地試料に対して垂直方向に貫入することにより,誘電パラメータを測定している.この時電極プローブと試料の接触面積が厳密に一定とならない場合があることが分かった.次年度はこれらの問題を解決し研究を推進していく.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いる装置(ネットワークアナライザ,同軸ケーブル,プローブ),校正・解析プログラムにおいて,より高精度に測定が可能となるように改良が必要である.従来用いてきたエチレングリコールの文献値は,特定の温度領域および周波数帯において,実測値と計算値が乖離することが分かった.そのため,エチレングリコールを他の物質に変更する,エチレングリコールの校正値を細かく実測する,またはその両方行うことにより,正しく校正可能な方法を固める.また,誘電特性の解析プログラムにおいても,特定の条件においてピークの分離が不安定となっているため,校正および解析プログラムの改良を行う必要がある. 使用計画については,より精密な測定を行うために,同軸ケーブルを短いものに変更するとともに,同軸ケーブル末端に接続するプローブとサンプルの接触面積を精密に一定とするためにハイトゲージを購入する.また,誘電特性測定時の試料温度を制御するために,ペルチェ素子を用いた装置の購入も予定している. さらに,誘電特性のデータ解析の精度向上ならびに,本研究で開発中の手法をより広範なパン試料に適用するために,共同研究先のストラスブール大学薬学部(フランス)に滞在することが不可欠となり旅費を計上する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究ではネットワークアナライザを用いて,パン生地中のデンプン,タンパク質と水分子の相互関連性を定量化する指標として,水分子の緩和現象に着目している.ネットワークアナライザを用いる際は,誘電特性が既知の水,空気およびエチレングリコールを用いて,事前に装置の校正を行う必要がある.パン生地の誘電特性を計算するうえで,計算プログラムまたは装置の不具合と思われる現象に遭遇した.この現象について考察していく過程で,装置の校正に用いているエチレングリコールの文献値が正しくない可能性が示唆された.とりわけ特定の温度および周波数帯において,文献値を用いると実測値と計算値とのあいだに乖離が認められ,その原因を解明することに時間を要した.そのため,研究計画としては,やや遅れた状況となり,次年度使用額が生じることとなった.
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