研究実績の概要 |
パン生地の状態の評価は焼成後のパンの品質に直結するため必要不可欠であるが,現在パン生地の品質評価は,生地表面の様子や生地をつまんだときの伸び具合,べたつきなど視覚的または触覚的感覚に基づいて判断している。これらの感覚的な評価法は,熟練の技術や長年の経験を要することから,職人と呼ばれる人材が必要になる。そこで,誰でも扱うことができ,パン生地に負荷をかけることなく評価する方法の開発が求められる。 誘電緩和測定は高分子-水分子系および生体組織中の水分子の回転運動や水和量が知ることができる手法である。本研究では誘電緩和測定によって得られたパラメーターと力学特性測定によって得られたパラメーターを比較することで,パン生地の非破壊評価法の開発を目的とした。 電極とネットワークアナライザを使用し,周波数100 MHz~20 GHzにおけるパン生地試料の誘電特性を測定した。その後解析ソフトを使用し,緩和時間,緩和強度などを計算により求めた。他方パン生地の力学特性を計測するためにレオメーターを使用し,パン生地試料の引張り試験を行い,最大応力,総エネルギーなどの力学パラメータを測定した。 パン生地の誘電特性測定により,水分子‐デンプン分子などの水和構造に起因する水分子の束縛状態を推定可能であることが分かった。また,誘電特性測定と力学特性測定で得られたパラメーター間において,いくつかの組み合わせにおいて高い相関が認められた.このことにより誘電特性測定によってパン生地の品質を評価することができると予想され,経験からくる主観的な評価方法に頼ることのない,誰でも扱える簡便なパン生地の品質評価方法の開発に繋がること基礎的な知見が得られた。本研究では高価なネットワークアナライザを用いた。パン生地の製造現場で簡便かつ汎用的に用いるためには,周波数を限定するとともに,同軸ケーブルを含めた測定系の改良する課題が残った。
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