研究課題/領域番号 |
20K02334
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研究機関 | 京都ノートルダム女子大学 |
研究代表者 |
中村 久美 京都ノートルダム女子大学, 現代人間学部, 教授 (80240860)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 住居管理 / 超高齢期 / リフォーム / 住み替え / アクティブシニア / 住生活 |
研究実績の概要 |
成熟した郊外住宅地を対象に2020年10月に実施した質問紙調査のうち、居住の管理と住宅の維持管理の部分に関する分析について、5月の家政学会大会では、居住意識を中心に、9月の建築学会大会では、住宅維持管理の実態と将来の見通しにそれぞれ力点をおいて研究発表した。 一連の研究発表で公表した研究結果と考察において、以下の3点を指摘している。①現時点ですでに後期高齢期以降のステージにいる高齢者たちにとっては、人生100年時代は後付けの話にすぎず、自分事としてとらえてこなかったものと推察される。後期高齢期が長引くことへの準備や心づもりもないまま、さらなる加齢とともに暮らしづらくなる後期高齢期以降の居住問題と、あとに残される住宅の処遇問題が、今後さらに顕在化することが予測できる。 ②将来にわたって現住宅への居住の継続を考えるのであれば、高齢期が進む前に、高齢化対応と維持管理のしやすさを担保するような、減築を含む一定規模のリフォームで対応することが1つのモデルとして提示できる。高齢期直前のステージで、高齢期以降の住まいの選択肢が提示されるとともに、居住継続にあたっては、耐久性の補強や高齢化対応などの補修、改修の実施への支援、誘導、場合によっては啓発の働きかけがかぎになる。 ③高齢期の住居管理を啓発、支援する情報提供や相談には、居住者が安心して利用できるよう行政の関わりが不可欠である。行政のバックアップによる建築士や不動産鑑定士など関係の専門家を招いての住宅地単位の勉強会などは、高齢期の住居管理への実質的な啓発や支援に有効であると思われる。さらに高齢期の居住を支える家守となる工務店を居住者に仲介するための、行政の登録制度などの活性化も求められる。 以上、質問紙調査で得られた知見は、論文としてとりまとめ、学会へ投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目には、質問紙調査の回答から、詳しいヒアリング調査に協力可能な事例を抽出し、現地観察と併せて事例調査を実施する計画であった。新型コロナウィルス感染流行の動向をみながら機会を探っていたが、とりあえず、家屋や庭の維持管理の実態を外部からの目視による調査にとどめ、補足的にまちづくり協議会元会長にのみ、ヒアリングを実施するにとどめた。 5月には家政学会大会において、「住まいの管理と将来の居住意識ー人生100年時代における高齢期の住生活管理に関する研究 その1」の口頭発表を実施(zoomによる)、9月には、建築学会大会において、「超高齢社会における高齢期の住居管理に関する研究 その1.住まいと居住のマネジメント」の口頭発表(zoomによる)を行った。 事例調査の方はしばらく見合わせることとし、その間、質問紙調査の前半部分である「居住の管理」と「住宅維持管理」の部分を先行してフルペーパーの論文にとりまとめることを計画、その部分のさらなるデータ分析を深めるとともに、2件の口頭発表で受けた質問や意見を参考に、論文を執筆、途中、質問紙自由記述部分の確認のため、調査対象住宅地を再訪、視察し、自治会長よりヒアリングを行った。12月初旬に日本家政学会に論文を投稿、年明け2月初旬に審査結果と審査所見を得て、適宜、修正加筆して再提出、その後数回のやりとりを行い、掲載決定通知を待つ状況である。 一方、事例調査については、大規模に実施することを断念、これまでの戸建て住宅を対象とした調査の蓄積から、モニター的な関係を築いている居住者に協力依頼、本研究テーマである住居管理に関する実態の観察や後期高齢期以降の居住に対する考えを聴取する調査を年度末に2地区(明石市から神戸市垂水区にかけての明舞団地および名張市桔梗が丘)、4例ほど実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度実施の質問紙調査の「生活財管理」部分(質問紙後半部分)について、5月の家政学会大会および9月の建築学会大会で研究発表する一方、併行して、質問紙調査の対象住宅地内での戸別の事例調査を、コロナの動向をみながら実施する。 夏までには学会に先行投稿した「居住の管理」「住宅維持管理」部分をカバーする論文が掲載の方向にすすむものと考えられるが、それを見届けたうえで、第2報目の「生活財管理」の執筆にとりかかる。本論文はできるだけ本研究最終年度の2022年度中の掲載決定を目指す。 併行して、事例調査の結果についての報告会を、調査対象住宅地で自治会、あるいはまちづくり協議会などとの協力により、実施する。その際に意見交換などの場を設け、住み替えや住宅維持管理、超高齢期の居住の選択肢などについて、さらにはそれを支援するしくみや情報提供のあり方について、住民からの意見や要望をくみ取る。質問紙調査を含む当該地域との本研究に関する一連のやり取りや住民意見を総合して検討した、地域コミュニティの介入による、高齢期の住居管理支援のモデル施策をとりまとめる。 第2報となる論文の掲載決定が2022年度中に見込めない場合、また上述のモデル施策を今年度中に公表できない場合は、研究期間の延長を願い出ることも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表がいずれもオンラインであったこと、加えて研究資料の採取や本研究に関連する学会イベントなどの中止やオンライン化により、出張旅費を使う機会がほとんどなかったことが大きい。また、調査対象住宅地での研究報告会など、住宅地現地での活動も新型コロナウィルス感染流行により制約されたために、活動費や交通費を支出する機会がなかった。さらに学会への論文投稿(第1報目)の予定がやや遅れたために、2021年度予算で論文投稿および掲載に関わる費用が処理できなかった。 次年度の学会発表も、すでにオンラインでの実施が決まっており、学会旅費の入用はないが、資料採取や本研究に関連する学会催し物などへの参加を積極的に行うつもりであるため、旅費、交通費としての支出が増える見込みである。また2本の論文作成、および投稿に関わる機器類の購入や論文掲載料などの支出を予定している。
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