研究課題/領域番号 |
20K02344
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
柴田 敏行 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (50380796)
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研究分担者 |
田中 礼士 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (80447862)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルギン酸 / アルギン酸デオキシ糖 / アルギン酸リアーゼ / エンド型アルギン酸リアーゼ / 環境微生物 / LC/MS / 定量分析 |
研究実績の概要 |
グリクロナンのアルギン酸は,増粘剤や安定剤として数多くの食品に利用されている.アルギン酸の定量分析法は,ウロン酸への呈色反応を利用した方法が多く用いられているが,ペクチンをはじめ様々なマトリクスを含む食品への適用は,難しい.したがって,アルギン酸に特異的な定量分析法の開発は,重要な検討課題となっている.4-deoxy-L-erythro-5-hexoseulose uronic acid(DEH)は,アルギン酸からエキソ型アルギン酸リアーゼの作用によって生じる唯一の単糖(アルギン酸デオキシ糖)である.この研究では,アルギン酸を含む全ての食品の分析に適用出来るDEHをスタンダードとした新しいアルギン酸の定量分析法を開発する.具体的には,研究分担者と共に,①マトリクスの存在下でアルギン酸をDEHへと完全分解出来るベストミックス酵素の開発,②食品からの分析用試料調製法の検討,LC/MSによる検出と定量分析,③分析精度の評価,に関する研究を行うことを計画している. 令和2年度は,海洋性細菌Falsirhodobacter sp. alg1の生産する新規エンド型アルギン酸リアーゼ(Endo-Aly)とエキソ型アルギン酸リアーゼ(Exo-Aly)について,それらのリコンビナントタンパク質を調製し,アルギン酸分解活性の評価と反応条件の最適化を試みた.さらにベストミックス酵素の開発に必要なアルギン酸リアーゼライブラリーを構築するために,環境微生物のゲノムDNAからの新規Exo-Aly遺伝子の獲得について研究を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗状況を以下に示した. ・アルギン酸完全分解酵素のモデルとして,Falsirhodobacter sp. alg1の生産するEndo-AlyとExo-Alyを用いてアルギン酸の分解試験を行った.Endo-Alyは,アルギン酸ナトリウムを基質として,25℃,pH7.5において反応初期の1分間に3.2 μMの不飽和オリゴ糖に相当するTBA試薬呈色物質を増加させるタンパク質量を,Exo-Alyは,5.4 μMの不飽和オリゴ糖に相当するTBA試薬呈色物質を増加させるタンパク質量をそれぞれ1ユニットと定義した.酵素反応の試験には,市販の食品添加物用アルギン酸ナトリウム二種(M/G比:2.4,0.9)とアルギン酸プロピレングリコールエステル(アルギン酸PGA)を用いた.反応温度,反応時間,酵素量について検討を行い,アルギン酸ナトリウムをDEHへと90%以上分解可能な反応条件を確立することが出来た. ・ベストミックス酵素の候補となるアルギン酸リアーゼのライブラリーを構築するために,環境微生物サンプルからゲノムDNAを抽出後,PCR法を用いて新規Exo-Aly遺伝子と同等の配列をコードする遺伝子情報を複数獲得することを遂行した.新規Exo-Aly遺伝子を増幅させるために既存のAlyFRB遺伝子の全長を目的領域とするプライマーと,AlyFRB遺伝子の保存領域を目的領域とするプライマーを設計し,PCRを行った.沿岸海水および海藻摂餌性生物の排泄物からDNAをサンプルとして使用したところ,複数の分子量の断片が得られた.それら増幅断片の精製後,シーケンス解析を行った結果,単一の遺伝子が含まれることが分かった.それぞれAntarctica属,Paracoccus属細菌由来のExo-Aly遺伝子の変異タイプとみられ,環境中からの類似遺伝子の獲得が可能であることを裏付ける結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
・引き続きアルギン酸完全分解酵素のモデルとして,Falsirhodobacter sp. alg1の生産するEndo-AlyとExo-Alyを用いてアルギン酸の分解試験を行う.二つのアルギン酸リアーゼは,アルギン酸PGAに対して分解活性を示さなかった.アルギン酸PGAは,アルギン酸ナトリウムと同様,食品添加物として利用されている.よって,アルギン酸PGAの前処理法について検討を行い,アルギン酸リアーゼによる酵素分解を試験する.食品には,アルギン酸以外の増粘多糖類も添加物として含まれている.増粘多糖類とアルギン酸ナトリウムの混合試料を調製し,アルギン酸リアーゼを作用させる.理論値との比較から酵素活性に及ぼす増粘多糖類の影響を評価し,アルギン酸完全分解の条件を設計する. ・次年度も引き続き新規Exo-Aly遺伝子の獲得を目指す.ただし増幅産物の中には単一の遺伝子ではなく,混合されたサンプルも見受けられたため,これらのDNAサンプルに対し,大腸菌を用いたクローニング作業を行い,単一の遺伝子とする.その後,得られた単一の遺伝子に対し,シーケンスおよび相同性解析を行う所存である.得られた遺伝子については,発現ベクターを用いた発現解析に向けてベクターの構築及び発現量の調成,発現タンパクによるアルギン酸オリゴ糖からのデオキシ単糖の作製を試みる所存である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,新規Exo-Aly遺伝子の獲得に目途はついたものの,タンパク質発現の試験まで進めることは出来なかった.この研究項目は,二年間の計画で行っているため,研究は計画どおりに進んでいる.また,Covid-19の広がりのため,参加を計画していた学会大会が中止,またはオンライン開催となったため,旅費や参加費を予算執行することが出来なかった.残額と翌年度の助成金をあわせて,消耗品の購入に使用する.
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