最終年度では、シカ肉を原料とした肉醤加工品の機能性と安全性について検討を行った。機能性の評価では、in vitroにおいてACE阻害活性を測定したところ、本製品の濃度201μg/mLにおける阻害能は、濃口醤油の値(1620μg/mL)を下回った。また、安全性については、一般生菌や乳酸菌の増殖は認められず、ヒト胎児腎細胞HEK293を用いた細胞毒性試験の結果、通常の使用量では細胞毒性は観察されなかった。 対照群に加え、シカ肉由来の調味していない肉醤、および節類加工品をそれぞれ3%代替した飼料を、高齢マウス(B6J-Aged、60週齢、雄)に13週間投与し、体重とヒラメ筋重量を測定した。節類加工品投与群において、ヒラメ筋重量/体重比がコントロール群に比べ5%水準で有意に高値を示した(未発表データ)。この結果は、節類加工品投与により全身の筋肉量が維持されたことを示唆する。一方で、糖化に関する指標には差異が認められず、別の検討が必要であった。なお、高齢マウスに13週間投与しても生存率に変化は見られず、安全性が確認された。 研究期間全体を通じて得られた成果として、高静水圧酵素処理法を用いることでシカ肉およびイノシシ肉から26時間で肉醤が製造可能であり、調味により醤油らしい風味が付与されて食用に供し得ることが示された。さらに、シカ肉由来の肉醤については上記の方法により安全性が確保できた。機能性に関しては、線虫を用いた試験により抗老化効果や抗疲労効果が期待でき、ACE阻害能も認められた。以上のことから、シカやイノシシといったジビエ由来の原料に高静水圧酵素処理を施すことで、機能性が期待できる肉醤の製造が可能になったと考えられる。
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