前年度の研究を継続し、学会でこれまでの研究成果を発表した。蓄光織布を立体形状にすることで、平面では不可能であったJIS Z 9107 に規定された輝度クラスのクリアを目指した。併せて、様々な照明光や日常の光環境下でのりん光性能についての研究結果も報告した。 平面状の蓄光織布に複数のひだ(ノード)を形成し、単位長さ間のノード数や間隔、高さを変えた立体形状の蓄光織布に、様々な光源を再現した再現光で励起させた場合のりん光輝度と持続性を検証した。ノード数を増やし、且つ高くすることで表面積が増すため、より高いりん光輝度を得ることができた。蓄光織布が最も励起される波長領域は450nm以下で、その領域に強い分光を持つ光源によって高いりん光輝度を得られることも確認できた。そこで、立体形状にすることで蓄光織布自体のりん光による励起を試みたが、残光率に大きな変化はなく、りん光による励起はほとんど得られなかった。また、夜間の生活の中で得られる光源によるりん光輝度を計測したところ、電車内や地下街の光源は十分に蓄光可能な分光分布を示したが、夜道は蓄光可能な光環境に乏しく、視認するために充分なりん光輝度を得ることが難しいことが示唆された。りん光の持続性についても並行して検証したが、立体形状の蓄光織布で初期のりん光輝度が高くなったものほど残光率は低く、持続性の改善には至らず、今後の課題となった。 一方、災害時を想定した視界不良時の蓄光布の視認性評価のため、煙霧環境における蓄光布のりん光輝度の測定を継続した。実験装置の調整に時間を要し、被験者実験をおこなう準備を整えつつ、前述の蓄光織布が最も励起される波長領域について、新たな知見が得られたことから、関連する研究を優先して進めた。当該年度内では、被験者実験を実施できなかったが、新たに得られた知見と共に、今後の研究計画を再考することとした。
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