研究課題/領域番号 |
20K02363
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 和浩 静岡大学, 農学部, 准教授 (60508703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リンゴ / 細胞壁 / 調理 / ジャム / ペクチン / 成熟 / テクスチャ― / 加熱 |
研究実績の概要 |
日本では生食用リンゴ品種が大多数を占めるため加熱しても歯ごたえが残るが、海外では、加熱すると煮溶ける性質を有するcooking apple が広く消費されている。しかし、cooking appleの加熱崩壊のメカニズムは未だ解明されていない。最も消費量の多いCooking appleである‘ブラムリー’の収穫適期は明確に決定されておらず、成熟前に収穫、利用されることも多い。そのため、本研究では、供試した加熱崩壊性が異なる6品種の全てにおいて、収穫期を早期、適期、過熟期の3期に分けて果実を収穫し、実験を行った。 まず、果実品質調査により、糖酸度、硬度など基本的な果実品質要因を明らかにした。その結果、生果の硬度は、加熱崩壊性品種と非加熱崩壊性品種間で大きな差異はなかった。特に加熱崩壊性品種である‘ブラムリー’の生果の硬度は、供試した6品種中で最も高かった。 次に、新たな加熱崩壊程度の評価方法として、貫入硬度に加えてテクスチャー分析を用いる可能性についての調査を行った。その結果、硬度のみならず、粘着性、ガム性の3点で熱崩壊性の評価を行った方が、品種間差異をより詳細に評価可能であることを明らかにした。本結果は、園芸学会秋季大会において「テクスチャー分析によるリンゴ果肉の熱崩壊性の評価」とのタイトルでポスター発表を行った。 その後、加熱崩壊性の品種間差異をもたらす要因を明らかにするため、まず、加熱前後の果肉からエタノール不溶性画分(EIS)の抽出を行った。その結果、いくつかの品種では加熱に伴い、抽出されるEIS含量が増加することが明らかとなった。現在、増加の要因の解明も含め、加熱に伴う細胞壁の各成分の構成割合の変化の品種間差異を明らかにする目的で、EISからペクチン、ヘミセルロース、セルロースなど各細胞壁成分の定量分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R2年度は、①果実の基本的な品質の調査、②果肉の加熱処理方法の決定、③果肉崩壊性の評価方法の確立と品種間差の決定を行った。①については、加熱崩壊性の程度が異なる6品種(加熱崩壊性品種‘ブラムリー’、‘HFF60’、赤肉親系統Ⅰ、非加熱崩壊性品種‘トキ’、‘東光’、‘ふじ’)を、早期、適期、過熟期の3期に分けて収穫し、果実重、縦横径、果皮色、硬度、酸度、糖度等の基本的な果実品質要因を確定させた。②については、適切な使用機材、加熱時間、加熱温度等の決定を行い、果肉をプラスチックチューブに封入し、オートクレーブで105℃で3分間加熱する方法が最も適していることを明らかにした③については、当初計画では、貫入硬度のみで評価予定だったが、硬度、粘着力、凝集性、付着性、弾力性、ガム性、咀嚼性の7項目の同時測定と数値化が可能なテクスチャー分析を導入した。まず、硬度は、加熱崩壊性品種が非加熱崩壊性品種の半分以下の値を示した。さらに、粘着性は、加熱崩壊性品種の‘ブラムリー’が最も高い値を示し、歯ごたえを表すガム性では非加熱崩壊性品種の‘ふじ’、‘トキ’、‘東光’が高い値を示し、加熱崩壊性品種の赤肉親系統Ⅰ、‘ブラムリー’、HFF60‘が低い値を示した。このように果肉崩壊性は、硬度、粘着性、ガム性の3要因を用いると詳細に評価できることが明らかになった。現在、エタノール不溶性画分(EIS)からペクチン、ヘミセルロース、セルロースなどの各細胞壁成分の抽出・定量を行っており、計画は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ペクチン、ヘミセルロース、セルロースなど各細胞壁成分の定量を進めていく。定量が終了した後、ペクチン、ヘミセルロースの各細胞壁成分については、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて、分子量の変化を明らかにし、加熱に伴う細胞壁成分の変化およびその品種間差異の詳細を明らかにし、加熱崩壊性のメカニズムを明らかにする予定である。また、加熱崩壊性は、細胞壁成分の差異のみならず、細胞壁構造そのものの物理的な変化に伴って発生していることが強く示唆されたため、電子顕微鏡を用いて、細胞壁の構造の違いも視覚的に評価する予定である。また、R3年度もR2年度と同様に6品種、3収穫期での果実品質調査、テクスチャー分析等の反復実験を行うとともに、新たに購入したエチレン、CO2測定機を用いて、各品種のクライマクテリックライズの程度と果肉の加熱崩壊性の関係も明らかにする。以上の基本的な果実品質、加熱による細胞壁成分の組成変化、細胞壁構造の変化、の三要素から加熱崩壊のメカニズムを複合的に考察していく。さらに、得られた成果については12月に行う公開講座において、一般市民に紹介する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で出張ができなかったことと、研究室の閉鎖で人件費・謝金が発生しなかったこと、さらにはその影響で関連する様々な支出が抑えられたため次年度使用額が発生した。次年度使用分は細胞壁成分の分析実験に用い、消耗品費、謝金費として使用する予定である。
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