日本では生食用リンゴ品種が大多数を占め,加熱しても歯ごたえが残るが、海外では加熱すると煮溶ける性質を有するcooking appleが広く消費されている。しかし、cooking appleの加熱崩壊のメカニズムは解明されていない。最も消費量の多いcooking appleである‘ブラムリー’の収穫適期は明確に決定されておらず、成熟前に収穫、利用されることも多い。そのため、本研究では、加熱崩壊性を有するとされる新品種‘HFF60’を含む、加熱崩壊性が異なる6品種を、収穫期を早期、適期、過熟期の3期に分けて果実を収穫し、実験を行った。 令和2、3年度においては、各果実品質および加熱時の果肉テクスチャーについて評価方法を確立し、加熱により‘ブラムリー’および‘HFF60’が他の品種と比較し、著しく低い果肉硬度と高い粘着性を有することを明らかにした。さらに、細胞壁成分の分析より、‘ブラムリー’は、加熱に伴いセルロースおよびヘミセルロース含量が減少し、ペクチンの水可溶性画分が増大したことが明らかとなった。 最終年度では、細胞壁成分の各画分における加熱による分子量分布の変化について検討した。加熱による分子量分布の大きな変化はほとんどの画分では観察されなかったが、ペクチンの骨格を担うNa2CO3可溶性画分においては、‘ブラムリー’でのみ著しい低分子化が見られた。以上のことから、加熱に伴いセルロース、ヘミセルロースが可溶化し、さらにNa2CO3可溶性画分のペクチンが低分子化することが、‘ブラムリー’の熱崩壊性を示す要因であるものと考えられた。 また、‘ブラムリー’は、収穫時期の違いが加熱崩壊性に影響しないことが確認されたが、‘HFF60’は、収穫時期によって熱崩壊性の程度が異なり、加熱による細胞壁成分の変化も‘ブラムリー’とは異なることが示唆されたことから、その詳細は今後の検討事項となった。
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