研究課題/領域番号 |
20K02365
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
鋤柄 佐千子 京都工芸繊維大学, 繊維学系, 教授 (30216303)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 癒し / テキスタイル / 触感 / 視感 |
研究実績の概要 |
本研究は、テキスタイルの根幹にある価値、たとえば“癒し”や記憶に残る布の要素を表現する指標を素材物性、ひとの感性評価結果から明確にすることである。はじめに、どの様な布の特徴が触感、視感で記憶されやすいのか、視感と触感の交互に作用する条件も含めて調べた。試料布は、風合いの異なる織り布(黒色)11枚である。方法は、(1)触って記憶した布を、次に触った時に記憶できているのか、(2)触って記憶した布を次に見たときに選べるのか(3)見て記憶した布を、再度見た時に記憶しているのか、(4)見て記憶した布を触感だけで認識できるのかの4条件である。その結果、布の厚さは、視感、触感の両者の評価に影響を与えやすい。見た時の布表面の毛羽や光沢は、触った時の判断に影響を与えた。特に布を見て、表面が粗いと感じると、その後に同一の布を触った時に、実際よりも粗く感じる傾向が見られた。 次に、触感が ”心地よい” と感じる布は、安心感や“癒し”も同時に感じているのかを調べた。試料は、風合いの異なる33枚の布から、厚さ、重さ、圧縮特性、表面特性、qmax(冷温感の尺度値)、通気抵抗値を測定し、すべての特性値を用いて、クラスター分析を行い、各クラスターを代表する19枚を選定した。大学生46名は、触感のみで、SD法(14対の形容詞、±3の7点法)で評価した。その結果、「癒される」は、第1因子に含まれ、心地よい、好きと同程度の因子負荷量を示した。布から誘発される“癒し”は、嗜好や緊張感からの解放、親しみやすさのような個人の経験や記憶などに関係する。そこで、 “癒し”を感じる布に対する個人差を解析した結果、本研究の範囲では、共通の判断基準があると考えられる。さらに、癒しとの相関が高かった表面特性は、手で撫でた時に、柔らかい表面の動きを感じられるフェイクファーや、パイル構造が有効であることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染防止のため、緊急事態宣言の発令によって、前期は実験室での研究活動や感性評価をするための評価者を集めることができなかった。したがって、初めに予定していた「布を初めて触った時に想起される触感」に関係した実験はできなかった。そこで、実施計画を変更し、昨年度までに感性評価が終了していた「どの様な布の特徴が記憶されやすいのかを明らかにする「触感/視感」、布の特徴と短期記憶、特に視感と触感の交互作用の関係に焦点を当てた研究結果のデータ解析を中心に行った。この結果は、論文にまとめ、現在、学術誌に投稿中である. したがって、「癒し」と記憶の関係に関する実験はできなかった。しかし、短期記憶の実験においても、布の表面の柔らかさや布の構造の影響が大きいことがわかったことで、試料の選定は、布の表面構造の異なる布を選ぶことにした。後期になって、研究室活動の再開、評価者を感染対策を取った上で集めることができるようになったこと、研究員1名の雇用が始まったこともあり、遅れをとりもどしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
1)“心地よい”、“癒し”を感じる布は、“愛着”につながるのか? 本年度の感性評価実験で、評価者から布を触っているときに感じたことや連想したものを自由記述で記載してもらった。その言葉の解析がまだ十分できていないため、布の刺激と評価者の経験や思い出などの間に、関係がみられる試料があるのかを調べる。また、糸から布を設計する上で、必要な物性値の基礎資料を抽出する。
2)色の変化や模様が“心地よさ”や“癒し”につながるのか? 本年度は、触感を中心に実験を進めたため、視感の影響は考慮しなかった。今回用いた19枚の布は、色が統一されていない。"癒し"との相関が高い表面特性は、手で撫でた時に、柔らかい表面の動きを感じられるフェイクファーや、パイル構造が有効であることも明らかになった。そこで同一のパイル構造で、色を変えた試料を用いて色の効果について検討を加える。また、テキスタイルの持つ、もう一つの重要な性質である視感に訴える要素、特に、見る角度によって、色や模様が変化する布と安心、愛着、癒しについての関係を明確にする評価実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、海外で行われる予定であった国際会議が来年度に延期され、海外出張を見送った。また、国内の学会も、すべてWEB開催となり、旅費の支出がなかった。前期は、学内への入校が規制されていたため、非常勤研究員(ポストドク)の雇用が遅れた。この未使用経費は、次年度のリサーチアシスタント1名の人件費にあてる。
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