本研究は、「がん」治療後の後遺症の一つであるリンパ浮腫の治療に使用される治療用弾性着衣が抱える課題である「汚れの付着の防止」と「汚れの洗浄における弾性着衣機能の低下防止」に対し、弾性着衣の性能維持と継続使用を可能とする洗浄技術を確立し、リンパ浮腫患者の治療の一助となることを目的とした。 着用により患部を圧迫し症状を改善する弾性着衣は、ポリウレタンなどの化学繊維の混紡による高密度ニット地で構成され伸縮性を発現するが、これら繊維は皮脂汚れが付着しやすく洗濯で落ちにくく不衛生を招く。また、汚れの蓄積や洗浄による機能低下などが懸念される。 本研究では、研究実施計画に基づいて2020年度と2021年度は、項目1「弾性衣料の性能に及ぼす汚れ付着および洗剤・洗濯の影響」に続き、項目2「繊維の表面改質」を段階的に検討した。尚、2022年度は最終段階として設定した項目3「弾性着衣に適した洗剤および洗濯方法」を明らかにするために、これまでに行ってきた結果を総合的に踏まえ、実生活における家庭洗濯を視野に入れた患者にとって高効率な洗浄方法を追求した。項目1では、実際の医療用弾性着衣を用いて、洗剤の種類、柔軟剤や乾燥の有無など家庭洗濯を想定した組み合わせによる各種条件が弾性着衣に与える影響について、引張り試験(JIS L 1096)により検討した。項目2では、繰り返し洗浄後の弾性着衣の表面状態の観察を行った。また、繊維表面の親水性測定方法として油汚れの付着のしにくさ等の評価方法確立を試みた。項目3では、最終的に浮上した疑問点を整理すべくUVの影響や洗濯における着圧効果の実際を把握しまとめた。 結果、洗濯機および洗剤や柔軟剤の使用影響は少なく乾燥時の乾燥機使用を避ければ日常着の洗濯と同様の家庭洗濯が可能であることが示唆された。得られた結果より、患者にとって負担の少ない洗濯方法を提案することができた。
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