研究課題/領域番号 |
20K02380
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
大江 猛 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 主任研究員 (10416315)
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研究分担者 |
吉村 由利香 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 総括研究員 (00416314)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 皮革 / なめし効果 / 架橋反応 / 濃色着色 / 還元糖 / メイラード反応 / フェントン反応 / オソン類 |
研究実績の概要 |
本研究では、有害なクロムなどのなめし剤の代替として、グルコースやキシロースなどの糖質を利用した新しいなめし剤の開発を目指している。食品中に含まれる糖質とタンパク質が反応した場合、メイラード反応によって茶系統の色素が生成し、同時にタンパク質間で架橋反応が進行することが知られている。以前に、食品のタンパク質の代わりに羊毛などのタンパク繊維の着色実験を行ったところ、反応速度が非常に遅いため100℃付近の温度においても淡黄色の僅かな着色しか認められなかった。そこで、着色時間の短縮を目的として、メイラード反応の律速段階の一つである空気酸化を、過酸化水素を酸化剤とする反応に代用して化学的に進行させた。その結果、着色反応が効果的に進行し、羊毛の着色速度が約200倍加速されることが明らかとなった。本年度では、グルコースの酸化物によるクロムなめし革の着色を行った。予備実験において反応温度を検討したところ、45℃以上の反応温度でなめし革の熱収縮が起こり、さらに、60℃以上の反応温度では皮革の表皮部分を残して熱分解することを確認した。さらに、熱収縮の影響の小さい40℃の低温条件でクロムなめし革の着色実験を行い、皮革の着色濃度に比例する値であるK/S値を測定することによって、クロムなめし革を濃色に着色できる条件について詳細に調べた。その結果、これまでに検討した羊毛と同様に、反応温度に加えて、反応時間、反応系のpH値、グルコース酸化物の濃度が皮革の着色に大きく影響を与えていることが確認できた。また、着色剤として、グルコース以外の還元糖であるキシロース、アラビノースなどの五炭糖、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの六炭糖を用いて、同様の着色実験を行った。その結果、低温条件では糖の分子サイズだけでなく、糖水酸基の立体配置もK/S値に大きく影響を与えることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、耐熱性の低い牛の生皮の代わりにクロムなめし革を用いて、グルコースの酸化物を用いて着色実験を行った。その結果、クロムなめし革を用いても45℃以上の温度では、大きな熱収縮を起こすことが認められた。しかしながら、グルコース酸化物と皮革との反応性が高く、40℃以下の低温条件においてもメイラード反応が進行し皮革の着色が認められた。得られた実験結果は、現状利用されている有害なアゾ染料の代替技術として利用できる可能性を秘めている。低温条件においても、メイラード反応によって架橋反応が進行した場合、耐熱性の低い生皮のなめし剤としてグルコース酸化物が利用できる可能性が高い。次年度以降で、クロムなめし革の強度の影響を調べる必要はあるが、当初に計画した実験の大部分を遂行することができた。以上の理由から、現段階での達成度としては、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究計画は大部分が完了しており、次年度では、以下の2点を中心にグルコース酸化物を利用した皮革の加工に関する研究を継続する。①前年度に引き続き、耐熱性のあるクロムなめし革の反応前後での引張強度を調べることによって、グルコース酸化物による着色効果と機械強度への影響を検討する。次年度における目標としては、60℃以下での低温条件での着色と機械強度を両立できる反応条件を調べる。さらに、②生皮のモデル化合物として、皮革の主成分であるコラーゲンタンパクから得られるゼラチンとグルコース酸化物を反応させ、得られたゼラチンのゲルの物性を調べる。具体的には、加熱や反応によって得られたゲルの耐熱性への影響を調べることによって、ゼラチンがメイラード反応によって架橋反応が進行するか検証する。実際に、ゼラチンにおいても架橋反応が起こることが検証できた場合、次のステップとして最終目標である生皮とグルコース酸化物を反応させる際の課題について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な物品の購入によって、本年度に購入した万能材料試験機に利用する治具の一部が購入できなかったため、次年度の予算と合わせて購入する予定である。
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