研究課題
哺乳動物において食事から摂取しなければならない多価不飽和脂肪酸(PUFA)は生体膜の主要な構成成分であり、その代謝物は免疫応答など生体の恒常性維持に必要である。生体内のPUFAは脂肪酸の不飽和化酵素や伸長酵素によって炭素数と二重結合がより多い高度不飽和脂肪酸に変換される。近年、EPAやDHAなどn-3系高度不飽和脂肪酸の機能性が明らかになり、その摂取が推奨されているが、これらのPUFAの欠乏に関しては未解明な部分が多い。本研究では、高度不飽和脂肪酸の変換に関わる脂肪酸不飽和化酵素FADS2の欠損マウスにPUFA欠乏食を与え、生体内の高度不飽和脂肪酸が著しく欠乏したマウスを作成し、肝臓と腸管に対する影響を検討する。今年度は、FADS2欠損マウスに4週間のPUFA欠乏食を与え、肝臓に対する表現型の解析を行った。その結果、高度不飽和脂肪酸が欠乏したマウスの肝臓では中性脂肪だけでなく、コレステロールの顕著な蓄積が確認された。中性脂肪蓄積の要因として、脂質合成の転写調節因子であるSREBP-1の活性化を介した脂肪酸合成酵素の遺伝子発現の増加と、肝臓から血中への脂質の移行を担うリポタンパク質であるVLDLの分泌阻害が生じていることがわかった。また、高度不飽和脂肪酸欠乏マウスの肝臓では、コレステロール合成酵素の遺伝子発現も増加していた。コレステロールの中間産物も顕著に増加していたことから、高度不飽和脂肪酸欠乏時にはコレステロール合成が亢進していることがわかった。さらに、高度不飽和脂肪酸欠乏マウスでは生体内で産生されるある種の酸化コレステロールも蓄積しており、この増加が肝臓における脂質代謝の変化に関わっている可能性が示唆された。これらの結果より、高度不飽和脂肪酸の欠乏は肝臓における脂質代謝の変化を誘導し、脂肪肝の病態をより悪化させることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、脂肪酸不飽和化酵素FADS2の欠損マウスにPUFA欠乏食を与え高度不飽和脂肪酸欠乏マウスを作成した際に、肝臓において中性脂肪とコレステロールが蓄積すること、そしてそのメカニズムを明らかにした。本研究の成果は、”Ablation of fatty acid desaturase 2 (FADS2) exacerbates hepatic triacylglycerol and cholesterol accumulation in polyunsaturated fatty acid-depleted mice”としてFEBS lettersにアクセプトされた。
今年度は、高度不飽和脂肪酸欠乏マウスの肝臓において中性脂肪やコレステロールの顕著な蓄積が生じることを明らかにした。これまで多価不飽和脂肪酸欠乏マウスにおいて、肝臓のコレステロールが蓄積するという報告はなく、高度不飽和脂肪酸欠乏マウスでみられたコレステロール蓄積は新規的な現象である。一方で、我々は肝臓におけるコレステロールの蓄積に関してはその要因を明確にできなかった。そこで、来年度はFADS2ノックアウトの肝細胞を用いて、高度不飽和脂肪酸欠乏によってコレステロール合成が亢進するメカニズムを明らかにする。また、出生時から高度不飽和脂肪酸欠乏にあるマウスを用いて、吸収や炎症応答などの腸管機能に異常がみられないかも検討する。
コロナの影響で当初の予定より試薬等の購入額が少なかったこと、また学会等が全てオンラインとなり、旅費の使用が全くなかったため、計画通りに研究費を使用することができなかった。今年度は新たにFADS1及びFADS2ノックアウト細胞を用いた検討を行うことから、消耗品の計上額が当初より増額する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) 図書 (1件)
FEBS letters
巻: Accepted ページ: Accepted
10.1002/1873-3468.14134
Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids
巻: 164 ページ: 102231
10.1016/j.plefa.2020.102231.
Front Endocrinol (Lausanne)
巻: 11 ページ: 614692
10.3389/fendo.2020.614692