研究課題/領域番号 |
20K02383
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
市 育代 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (50403316)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多価不飽和脂肪酸 / 脂肪肝 / 欠乏 |
研究実績の概要 |
哺乳動物は多価不飽和脂肪酸(PUFA)を生体内で合成できないため、食事から摂取する必要がある。哺乳動物においてPUFAを補給して生体に対する影響を検討した研究は多くあるが、PUFAの種類によって欠乏への影響が異なるかは不明な点が多く残されている。本研究では、脂肪酸不飽和化酵素FADS2の欠損マウスにPUFA欠乏食を与え、C20以上PUFAが著しく欠乏したマウスを用いて肝臓の表現型に及ぼす影響を調べた。 PUFA欠乏食を与えた成獣のFADS2欠損(KO)マウスは通常食を与えた野生型マウス(WT)と比較して肝臓の中性脂肪とコレステロール4倍程度増加した。その要因を調べると、KOマウスの肝臓では脂肪酸合成に関与する転写因子SREBP-1の活性化と標的遺伝子の発現が増加し、肝臓から血中の脂質移行を担うリポタンパク質であるVLDLの分泌が減少していた。また、コレステロール合成に関わる酵素の遺伝子発現もKOマウスでは上昇していた。 次に、出生時からPUFA欠乏食を与えたKOマウスは通常食を与えたWTマウスに比べて肝臓の中性脂肪量は5倍、コレステロール量は28倍増加し、特にコレステロールの蓄積が顕著であった。一方で、PUFA欠乏食を与えたWTマウスの肝臓ではコレステロールの増加はみられなかった。そして、KOマウスの肝臓では炎症性サイトカインや線維化マーカーの遺伝子発現が増加していた。また、Azan染色やSrius red染色の結果からも肝線維化が亢進している様子が観察された。出生時からC20以上PUFAが欠乏しているKOマウスは、肝臓においてコレステロールの顕著な蓄積と炎症及び線維化が誘導され、脂肪肝の病態が悪化することがわかった。 これらの結果より、肝臓においてFADS2を介して産生されるC20以上のPUFAは、脂肪肝の悪化とNASHへの進行に対して抑制的に作用することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、脂肪酸不飽和化酵素FADS2の欠損マウスを用いて、PUFAの中でも特にC20以上のPUFAが出生時から欠乏すると、肝臓においてコレステロールの蓄積が顕著であることを明らかにした。PUFA欠乏で本研究のような顕著なコレステロール蓄積はこれまで報告がないことから、新奇性のある研究成果であることが期待できる。さらに、コレステロールの蓄積が顕著であったFADS2欠損マウスでは肝臓の炎症と線維化が亢進していることもわかり、C20以上のPUFAの欠乏が脂肪肝の病態を悪化させる要因となることも示すことができた。本研究の成果は現在、論文執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、出生時からC20以上のPUFAが欠乏したFADS2欠損マウスでは肝臓においてコレステロールの顕著な蓄積と炎症及び線維化が誘導されることを明らかにしている。今年度は、出生時からC20以上PUFAが欠乏すると、肝臓のコレステロールが顕著に蓄積する要因と、コレステロールの蓄積が肝臓において炎症や線維化を亢進させるメカニズムについて検討を行う。 また、今年度は出生時からPUFA欠乏にあるFADS2欠損マウスの腸管機能についても検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスの繁殖が悪く、予定していた実験が行えなかったため 学会がすべてオンライン開催であったため、旅費が必要なかったため
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