研究課題
哺乳動物において食事からの摂取が必要な多価不飽和脂肪酸(PUFA)を補給して生体に対する影響を検討した研究は多くあるが、PUFAの種類によって欠乏に対する影響が異なるかは不明な点が多く残されている。本研究ではこれまで、脂肪酸不飽和化酵素FADS2の欠損マウスを用いてPUFAの中でも高度不飽和脂肪酸が欠乏すると、肝臓においてコレステロールが著しく蓄積し、炎症や線維化が生じたことを明らかにしている。また、コレステロール蓄積の要因を検討したが、コレステロールの合成や排出の亢進は確認できなかった。そこで今年度は、肝臓におけるコレステロール蓄積の新たな要因について検討を行った。肝細胞内のコレステロール制御において、リソソームは重要な役割を担っている。肝臓においてリソソームに運ばれたコレステロールエステルは、リソソーム酸性リパーゼ(LAL)を介して遊離コレステロールに変換され、肝臓外へ排出される。そこで、FADS2欠損マウスにおいてリソソームのコレステロール輸送に関わるLALやNPC1、NPC2などの遺伝子発現を調べたところ、これらの遺伝子発現に変化はみられなかった。一方で、リソソームに特異的局在するリン脂質LBPAはFADS2欠損マウスの肝臓で著しく増加していた。したがって、リソソームに存在するタンパク質の局在に関しても、今後検討していく必要がある。また、高度不飽和化酵素欠乏のFADS2欠損マウスにおいて、免疫組織化学染色の結果では小腸と大腸の表現型に変化はみられなかった。しかし、卵白アルブミン(OVA)による食物アレルギーを誘導した高度不飽和脂肪酸欠乏のFADS2欠損マウスでは、OVA特異的IgEの血中濃度が増加し、食物アレルギーの病態が悪化した。これらの結果より、食物アレルギーなどの病態が生じると、高度不飽和脂肪酸の欠乏によってアレルギー症状は悪化することが示された。
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