研究課題/領域番号 |
20K02388
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
杉井 潤子 京都教育大学, 教育学部, 教授 (70280089)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人生100年時代 / 高齢期教育 / 認知症ケア / 死生学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、老いの価値を再検討し、大衆長寿化が進行する人生100年時代に対応した、高齢者になるための新たな「ライフモデル」を構築することにある。本研究の独自性は、学校教育においても初等中等学習指導要領において認知症理解を進める必要性が指摘されていることをふまえ、現在の高齢者のみならず、子ども期・青年期にある世代にとっても将来を見据えて有用なライフモデルを企図する点にある。 令和2年度は、コロナ禍に伴って計画を変更し、現代の高齢期理解について資料整理をするとともに、それをふまえて高校生に向けての高齢期教育を進めることとした。 (1) 認知症がいっそう増加し、高齢者になる=認知症になるという意識が生まれ、そこから不安や忌避感が生まれている。日本認知症ケア学会における認知症ケアに関する研修に参加し、認知症ケア准専門士資格を取得し、認知症ケアの現状に関する情報収集を行った。その結果、認知症ケアの「専門職化」が進められ、認知症ケアに直接携わる医療や介護現場に関わる人々には高度な指導が行われている一方で、誰もが認知症ケアについて理解できるように一般化されているわけではないことが明らかとなった。 (2) ライフモデルを検討するうえで、生老病死という自然の摂理は避けられないことから、東京大学死生学・応用倫理センター上廣講座主催の臨床死生学・倫理学研究会にリモート参加し、終末期の在り方について情報を収集した。 (3) 高校家庭科教科書ならびに教員向け指導書の執筆をおこなった。高齢期の生き方を高校生が客体としてではなく、主体的に考えられるように検討した。とくに認知症についても詳しく言及し、高校生が高齢期になる頃にはどのような生き方や暮らし方が求められているのか、社会全体で支え合いながら、誰もが自らの人生を活き活きと堂々と元気に生き抜くために何が必要かを授業で考えられるように工夫した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により、老いに関する史料を収集するなどはできなかったが、リモートによって認知症理解を普及していくために認知症ケア資料は収集し、現状分析を行うことができた。また、死生学ならびに終末期ケアに関する資料収集もおこなった。さらに、高齢期教育については、高校家庭科教科書ならびに指導書の執筆を通して、主体的に生きていくための方策を検証することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)前近代から近現代における高齢者(老人)の描かれ方や老いに関する記述の分析をおこなう。絵巻物、新聞記事、家庭雑誌、小説、映画、絵画を対象として、高齢者(老人)の描かれ方を検討し、老いの価値がどのように変遷してきているのかを検証する。 中世・近世はじめ前近代については、原本にすべて当たるには時間的制約があることから、宮本常一『絵巻物に見る日本庶民生活誌』[1981]、黒田日出男『境界の中世象徴の中世』[1986],『絵巻子どもの登場』[1989]、司法省版『全国民事慣例類集』[明治13年 版]を参照して、生活史のなかから「老人」に焦点を絞り、描かれ方を分析する。近現代については、1951~1989年までを収集した『新聞集成老人問題』[1994]を参照して約1200記事から探索する。小説・映画等は、すでに研究代表者が深沢七郎『楢山節 考』[1957]以降、映画『午後の遺言状』[1995]、村田喜代子『蕨野行』[1998]までは整理してあるので、それ以降20年間を新たに収集して「老い」に焦点を絞り、描かれ方を分析する。以上から、人口構造や生活構造の変化とともに、老いの価値の変遷過程を明らかにするとともに、2050年の高齢者イメージと老いの価値を想定するための基礎資料とする。 (2)次世代の若者世代がいだく高齢者(老人)イメージと老いに関する意識の調査分析 新たに認知症等の記述が盛り込まれた「平成29,30年改訂の学習指導要領」をふまえて、 中学生・高校生を対象として、質問紙調査によって「高齢者になる」50年後の生き方を想定 させ、加齢意識・高齢者観・老い方についての意識を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナにより、すべてがリモートになったため。
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