研究課題/領域番号 |
20K02415
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
佐伯 周子 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (90281435)
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研究分担者 |
井出 良治 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (10638084)
河内 嘉道 日本歯科大学, 生命歯学部, 非常勤講師 (40837829)
安松 啓子 東京歯科大学短期大学, 歯科衛生学科, 教授 (50380704)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 味覚 / 嗜好 / 食体験 / 認知機能 / 食物摂取 |
研究実績の概要 |
本研究では、千葉県市川市教育委員会主催ヘルシースクール推進事業「すこやか口腔健診」の市立小学校児童を対象とした味覚検査により、児童の嗜好や認知・表現の特徴などを「織り込んだ」味覚検査を確立し、適切な食育推進と味覚発達機序解明を目指している。COVID-19拡大で中止されていた味覚検査だが、令和3年度は5校(5,6年生)で実施された。 1)検査用液(ショ糖水と食塩水)の分析:市販水ペットボトルにスティック砂糖(3g/袋)か給食塩(1g/袋)を1,2あるいは3袋加え3段階の濃度溶液を作製した(ショ糖、食塩とも1袋/550mlは約16 mMに相当)。令和3年度は使用残液の浸透圧を分析し、溶液作製濃度の再現性は良好で、ポータブル塩分濃度計も食塩水濃度チェックに有用なことが確認できた。そこで令和4年度は、糖についてもポータブル濃度計を導入する。 2)味覚と嗜好の関連性の分析:過去の解析で味覚閾値検査が嗜好の影響を受けると考えられたので、令和3年度は約500人の児童に対して新たに「あまい物・しょっぱい物でまず何を思い浮かべるか」の質問を加えた(複数回答可)。その結果、あまい物で「砂糖(さとう)」を想起したのは全回答の6%に過ぎず、チョコレートやケーキ類の回答が最多で65%だった。しょっぱい物で「塩(しお)」を想起したのは全回答の40%で、ポテトチップス(15%)、せんべい(12%)と続き、梅干しが7%、レモンが5%だった。これらの結果から、児童の多くが油分を含んだ食品で甘味や塩味を体験していること、塩味ではしょっぱさとすっぱさが言語(あるいは感覚)的に判別されていない児童もいること等が示された。例えば味を奇異と捉え表現を誤れば「感じている」にもかかわらず誤回答する可能性がある。よって、児童の味覚閾値を正確に判断する上で、食体験や味表現方法の調査など多角的な情報収集が重要と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は千葉県市川市教育委員会主催ヘルシースクール推進事業「すこやか口腔健診」で同市立小学校4~6年生児童を対象とした味覚検査を基盤としているが、令和3年度は、今までの検査方法と結果をもとに、味覚検査の合理化(検査溶液の濃度測定と設定方法)、食嗜好アンケート調査用紙の改訂および味覚検査用紙の改訂を行い、実際にそれらを用いて検査を実施した。 動物実験を担当する研究分担者は、総説および解説、招待講演・シンポジウム、学会発表など、着実に成果を挙げている。
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今後の研究の推進方策 |
味覚検査は今後も続けられる予定なので、令和4年度もその準備を進めるが、今まで採取したデータの解析結果から、味覚と嗜好の境界が児童では曖昧であること、その背景には、児童が未だ、感覚的・言語的な味の認知を確立する途上にあることが考えられた。これらは、家庭や学校における食の体験が児童の味覚認知の確立(あるいは成熟)に重要であることを示唆し、逆に、児童の味覚検査の回答を正しく解釈する為には、その時点までの彼らの食体験、嗜好および味の表現方法など食にまつわる情報を収集し参考とすべきであると推測された。 そこで令和4年度は、検査方法の合理化を進めつつ、味覚認知閾値の回答とアンケート調査の結果を全体として分析し、その成果を原著論文にまとめて報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は味覚検査を行い、予定した方法で新たなデータを採取し解析にも着手したが、令和2年度の味覚検査中止の影響で解析と考察に若干の遅れが生じている。その為、令和3年度に予定していた論文投稿を令和4年度に行うこととし、その論文投稿準備と投稿料に使用する。
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