研究課題/領域番号 |
20K02421
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研究機関 | 長岡工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田崎 裕二 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (90390434)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マツタケ / 香気生合成機構 / 桂皮酸メチル / 1オクテン3オール / 桂皮酸カルボキシルメチルトランスフェラーゼ / ジオキシゲナーゼ / 遺伝子発現 / 酵素化学的性質 |
研究実績の概要 |
マツタケの特徴香である桂皮酸メチルは,マツタケとその近縁種のみで検出される.しかし,それ以外のキノコにも桂皮酸メチル生合成に関わるフェニルアラニン(Phe)アンモニアリアーゼ(PAL)とその基質(Phe)は存在する.そこで,マツタケとその近縁種のみで桂皮酸メチルが検出される要因を明らかにするため,マツタケの桂皮酸メチル生合成に関わる桂皮酸カルボキシルメチルトランスフェラーゼ(CCMT)の遺伝子を単離し,その発現様式と酵素化学的性質を調べて,CCMTの機能を解明する.これにより桂皮酸メチル生合成機構の全貌を明らかにする.また,マツタケの全体の香りが,収穫後に減少する要因を明らかにするため,マツタケの主要な香気成分1オクテン3オールの生合成への関与が推測されるジオキシゲナーゼ(DOX)遺伝子の発現様式と酵素化学的性質を調べて,DOXの機能を解明する. 2021年度において,CCMT候補遺伝子のcDNAとゲノムDNAおよび3つのDOX遺伝子のゲノムDNAの単離・配列解読は完了し,それぞれの遺伝子の構造を明らかにした.また,対象遺伝子の機能を解明するため,CCMT候補遺伝子の組換え蛋白質を産出・精製し,生成物を解析したが,桂皮酸メチルの生成は確認できなかった.一方,3つのDOX遺伝子の中の2つの組換え蛋白質を産出・精製し,生成物の解析より,それらがDOX活性を有することを明らかにした.これらの研究成果は,マツタケの主要な香気成分1オクテン3オールの生合成に関わるDOX遺伝子の機能解明およびマツタケの全体の香りが収穫後に減少する要因を解き明かす大きな手掛かりとなる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画①『CCMTの遺伝子cDNAとゲノムDNAの単離・配列解読』において,CCMTの候補遺伝子(2020年度単離)のcDNAとゲノムDNAの単離・配列解読を行い,遺伝子の構造を明らかにした.計画②『DOX遺伝子のゲノムDNAの単離・配列解読』において,3つのDOX遺伝子(2020年度単離)のゲノムDNAの単離・配列解読を行い,遺伝子の構造を明らかにした. 先行して実施した計画④『組換えCCMT及びDOX蛋白質の産出と性質化』において,CCMTの候補遺伝子の組換え蛋白質を産出・精製して,桂皮酸を基質に用いて生成物を解析した.しかし,桂皮酸メチルは検出されなかった.今後,組換え蛋白質の産出方法および他の候補遺伝子の単離についても検討する必要がある.一方,3つのDOX遺伝子の組換え蛋白質を産出・精製し,リノール酸を基質に用いて生成物を同定したところ,これらの組換え蛋白質がDOX活性を有することを明らかにした.残りの1つについては,組換えプラスミドの作製中である. 計画③『CCMTとDOXの遺伝子の発現量測定』においては,上記計画④が遅れているため,未着手である.
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今後の研究の推進方策 |
マツタケの特徴香である桂皮酸メチル及びマツタケ全体の香りに関わる1オクテン3オールの生合成機構を解明するため,2022年度においては,マツタケの菌糸体及び子実体において,3つのDOX遺伝子の発現様式と1オクテン3オールの生合成との関係を明らかにする.また,DOXの組換え蛋白質の酵素化学的性質の詳細を調べて,それらの機能を明らかにする.一方,CCMTについては,組換え蛋白質の産出方法の再検討を行い,その結果によっては,新たな候補遺伝子の単離を検討する.これらの目的を達成するため,以下の③,④,①の研究の実施を予定している. 計画③『CCMTとDOXの遺伝子の発現量測定』 DOX遺伝子の転写量をリアルタイムPCR法で測定する.試料には子実体の生長過程,各部位,収穫後保存した子実体及び香気成分の材料が供給された菌糸体から抽出したトータルRNAを用いる.これにより,マツタケの子実体と菌糸体における各遺伝子mRNAの発現の量,場所,時期,誘導といった発現様式を明らかにする. 計画④『組換えCCMT及びDOX蛋白質の産出と性質化』 大腸菌発現系により産出後,精製したDOXの組換え蛋白質の最適pH・温度,反応生成物等を調べて,それらの酵素化学的性質を詳細に調べて,機能を明らかにする.組換えCCMTについては,蛋白質の産出方法を再検討して活性型の蛋白質を生成し,酵素化学的性質を調べる. 計画①『CCMTの遺伝子cDNAとゲノムDNAの単離・配列解読』 上記の計画④において,組換えCCMTに対象の活性が見出せない場合は,新たなCCMTの候補遺伝子の単離を試みる.
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