2023年度は、本研究課題に関連するいくつかの研究業績を公表した。一つは、文部科学省「『令和の日本型学校教育』を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議」の報告を素材として、現在の教育委員会制度における民衆統制機能の現状と課題について分析した。もう一つは、教育・文化の分野を事例として、地方自治体における執行機関多元主義(具体的には行政委員会制度)の実態と課題について検討を加えた。行政委員会は首長から一定程度独立しており、そのほとんどは複数の委員による合議制機関である。教育委員会は執行機関多元主義を具現化する仕組みとして重要であるが、そこでも近年首長の影響力が強まっていることを述べた。また、上記二つの業績に加えて、教育行政における地方議会の役割と課題について分析した著作の書評を学会誌に寄稿した。 本研究課題は採択直後にコロナ禍が発生し、調査等の予定を大幅に修正せざるを得なかった。他方で、コロナ禍による学校一斉休校の際の首長-教育委員会関係など、新たに検討すべき問題が生じたため、研究期間の途中からはそれらの課題の解明にも取り組んだ。コロナ禍においては、平時は外から見えにくい首長、教育長、教育委員の影響力構造や協力関係、緊張関係が可視化された部分がある。それは学校の一斉休校や学校再開、休校時の子どもの支援や預け先、オンライン授業の実施など、住民とりわけ学齢期の子どもやその保護者にとって影響の大きな政策決定が相次いで行われたためである。分析からは、首長、教育長、教育委員の法制度的な権限と実態が乖離していること、一方で教育委員の影響力が総じて限定的であることは否めないが、全く無力とまで言えるかは検証が必要であり、合議体の教育委員会が存在することによる政策帰結の違いは何かを明らかにすることが今後の研究課題として重要であることを述べた。
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