研究課題/領域番号 |
20K02427
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
野平 慎二 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50243530)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人間形成論 / ビオグラフィ研究 / 規範性 / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究は、現代のドイツ教育哲学における人間形成論的ビオグラフィ研究(bildungstheoretisch orientierte Biographieforschung)の前提となる人間形成概念について、(a)人間形成概念の規範性、(b)人間形成論における主体の概念、という2点を中心に解明することを目的としている。令和2年度は、上記の目的のうち(a)人間形成概念の規範性についての検討に焦点を当てて研究を実施した。 人間形成概念の規範性(何がよりよい人間形成なのか)をめぐっては、(1)人間形成を「自己と世界との関係の変容」と捉えた上で、変容の実質的な善し悪しは問わない立場(H.-Chr.コラー)と、(2)「批判的、反省的になること」を人間形成の実質的な規範性とみなす立場(Th.フックス)との対立軸が明らかとなった。また、これらの(1)、(2)の立場は研究主体(インタビュアー)と研究客体(インタビュイー)を区別する二元論的な研究姿勢を前提としているのに対して、(3)インタビューという相互行為のみならず、その再構成と公表という研究実践の遂行のレベルにおいて作用する規範性に着目する立場(H.-R.ミュラー)があることも明らかとなった。なお、人間形成概念の規範性とインタビュー分析との関係(研究者の想定する人間形成の規範性をインタビューのなかに読み込むだけにとどまるのか、それともインタビュー分析から何らかの新しい規範性とその根拠づけを導き出すことができるのか)、という点が今後の課題として浮かび上がった。 本年度の研究成果は、教育哲学会第63回大会のコロキウムにおいて報告するとともに、『ディルタイ研究』31号、『愛知教育大学研究報告 教育科学編』70号に論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」にも記したとおり、1年目は人間形成論的ビオグラフィ研究における人間形成概念の規範性について検討を行った。人間形成概念の規範性に関わる理論的検討は、当初予定していた通りに実施することができた。 一方、理論的検討と並行して実施する予定だった実際のインタビューの遂行と分析、ならびにドイツ教育哲学における人間形成論的ビオグラフィ研究の現状に関する訪問調査は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、実施できなかった。今年度の未実施分については、調査の実施方法を対面からオンラインに切り替えるなどの変更により、研究期間のなかで埋め合わせることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、人間形成論的ビオグラフィ研究の前提となる人間形成概念に関して、人間形成論における主体の概念に焦点を当てて解明を行う。人間形成論的ビオグラフィ研究における主体の概念をめぐっては、理論的には個人を背景で規定するハビトゥスや構造に焦点を当てて論じられる傾向がある一方、経験的なインタビュー分析の場面ではもっぱら個人が自立性や批判性を獲得していく過程として人間形成が捉えられており、理論的な議論と経験的な分析における主体の概念が必ずしも整合的でない。主体概念の検討に際しては、主体を構造の面から捉える立場(F.v.ローゼンベルク)と意識や行為の面から捉える立場(Th.フックス)という二つの立場を仮説的に大別した上で、それぞれの主体概念の理論的基礎づけと、各論者が実施しているインタビュー分析との対応関係を検討する。また、本研究においてもビオグラフィ・インタビューを実施し、そのインタビュー・データの分析と対応させながら、主体概念の検討を進める。併せて、ドイツ教育哲学における人間形成論的ビオグラフィ研究の代表的研究者と意見交換を行い、研究動向の調査と情報収集を行う。 最終年度の令和4年度は、令和3年度までの研究成果をもとに、インタビュー・データとして示される経験的現実と理論的な主体概念との接続可能性、ならびに人間形成概念の規範性の根拠づけの可能性とその条件を踏まえて、人間形成論的ビオグラフィ研究において前提とされるべき人間形成概念の明確化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度にインタビュー調査とドイツへの訪問調査を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により実施できなかったため、旅費と謝金を中心に次年度使用額が生じた。令和2年度に生じた次年度使用額は令和3年度に繰り越し、主に物品費(関連図書の追加購入など)に加算して使用する。
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