研究課題/領域番号 |
20K02431
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
名嶋 義直 琉球大学, グローバル教育支援機構, 教授 (60359552)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 批判的談話研究 / 沖縄 / 新聞記事 / 地方紙 / 民主的シティズンシップ / 教材 |
研究実績の概要 |
初年度の主たる目標は,批判的談話研究(CDS)の「教育」における有益性を明らかにすることである。その前提となる「CDSの有益性」を明らかにすべくデータ収集を開始した。複数の沖縄地方紙・全国紙と購読契約を結び,自費で購読している新聞社と無料で閲覧できる新聞社を加え,計7社の新聞からデータを収集した。具体的には,毎日複数回,各新聞社のWebサイトを閲覧し,沖縄に関連する新聞記事を収集した。データ収集は2021年度も進行中である。沖縄に関する内容の記事を収集したのは,ドイツの民主的シティズンシップ教育で重視されるボイテルスバッハ・コンセンサスを守り,研究者の利害関心から出発したからである。沖縄社会の問題をめぐる言説に目を向け,どのような「力を持った人や集団」が,どのような意図で,弱者を支配し誘導しようとしているのかを可視化する,という問題意識があったからである。そのため,地方紙の言説が持つ支配性を可視化し,全国紙のそれと比較してその共通性と独自性を明らかにすることを当面の目標とした。収集したデータの中から,全国報道と地方紙報道との間に明確なリンクが見出せた「新型コロナウイルスの感染拡大」に関する記事を選び,批判的談話研究の観点で分析し論文を執筆した。当該論文は研究代表者が編者である編著書に収録し,2021年度前半に明石書店より刊行予定である。それと並行して,沖縄関連の記事の批判的談話研究成果を,民主的シティズンシップ教材ためのコンテンツに応用する試みを行った。これは研究協力者2名と行っているもので,3/31でコンテンツの作成が終わり,出版社に提出するための微調整を行っているところである。また民間NPOや他大学からの依頼を受けてオンラインによる講演やワークショップを複数回行い,関連する編著2冊刊行して,「CDSの有益性」や「民主的シティズンシップ教育の重要性」を国内外に発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点までの進捗状況には予定通り進んでいるものと予期しない状況で実施できず停滞しているものとがあるが,2021年度の研究活動として予定していたものを2020年度に行うことができた部分があり,それが停滞している2020年活動分を補完するものとなった。そのため,部分的な遅れは否めないが,全体的には概ね順調に進展していると考えた。以下,具体的に説明を行う。データの収集,および批判的談話研究の有益性を確認し発信することについては概ね順調に進んでいる。ドイツに渡航して学校の授業を見学したり資料を収集し翻訳したりすることについては,新型コロナウイルスの世界的感染拡大のため全くできなかった。研究代表者が渡航することもできず,ドイツ側もロックダウンが実施されるなど,市民生活のみならず研究教育活動も制限されているためである。しかしその調査研究活動に予定していた時間と労力を国内における研究,その成果公表や教育活動への応用に充てることができ,2021年度には編著や教材の刊行が予定されている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度から2022年度にかけては,民主的シティズンシップ教育(EDC)の有益性を明らかにする目標を立てている。2020年度の研究成果を応用した教材を作成し授業で試用する。試用後は「自らの関心・利害に」沿った教材を用いて,開放的中立性を保ちながら「論争的なテーマを議論があることとして扱うこと」が可能であるかどうか,「教師が教え込むのではなく受講生自らが判断すること」が可能かどうか等について,受講生からも適宜フィードバ ックを得て検証し,そのフィードバックを次の実践に活かす。そして,大学授業の中にEDCの理念や方法論を取り込むことで,民主的な手法を用いて市民性を育てる教育を展開させていくことが可能であること,その際にCDSが効果的に活用できること,この2点について分析や考察を進め,最終的に実践研究としてまとめる。そこから,大学教育,特に語学教育や言語学教育の中でいかにしてEDCを実践するかについての有益な知見を提供する。新型コロナウイルスの状況次第ではあるが,2020年度に実施できなかった計画にも取り組みたい。可能であればドイツに渡航し,学校を見学するなどして民主的シティズンシップ教育の実践例を収集し自分の研究に活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的感染拡大により,ドイツに渡航して学校見学をしたり資料収集を行うことができなかった。またそれにともなって支出を予定していた渡航費・宿泊費・資料購入費・通訳翻訳費が支出されないままとなった。ベルギーで予定されていた国際学会にも参加予定であったが2021年度に延期となった。国内においても同様に,参加予定であった学会はオンライン開催となり出張にかかる費用がほとんど不要となった。そのため次年度使用額が生じた。2021年度においても新型コロナウイルスの世界的感染状況次第の面があるが,研究計画に沿って2020年度にできなかったことを可能な限り遂行する予定である。次年度使用額はそのために使用する。
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