教育を受ける権利を「人権中の人権」と位置づけた際、公教育は無償性という性質を有し、 その性質の制度的実現形態が無償制である。このような前提にたち、本研究は教育の無償性の具体的制度形態を検討することを目的とした。検討課題は、(1)我が国幼児教育から高等教育にわたって展開される「教育の無償化」政策における教育財政システムの課題を明らかにすることであり、そのために公教育費の歳入構造と、労働・社会保障システムの法学的・比較制度論研究を試みた。その際、無償制が先行する諸外国の制度を対象とし、その税制、政府間財政移転の法制、私費負担の範囲・費目および費用の詳細を明らかにすることを目指した。また、(2)公教育ならびに私教育の態様については、教育法制だけではなく、労働法制や社会保障法制に規定されるとの仮説のもと、公教育支出および私教育費の量的・質的特徴と、労働・社会保障システムとの相関性について分析することを試みた。 研究期間において、世界的な感染症蔓延により調査研究を中止・縮小することとなり、また本研究活動以外の諸業務の状況および"ワークライフ・アンバランス"の状況により本研究に必要な時間を確保しえなかったことから、所期の研究計画を十全に進めることが困難となった。高等教育における私費負担に関わる制度については、アメリカにおける大学授業料の一部免除等、日本と比較して経済的な面から実質的平等のための配慮がなされていること、日本においては統計資料に現れない私費負担が多く存在しているため(ex.教育実習費)、精緻な比較研究が必要なことなどが明らかになったが、本研究の計画全体からみれば途についた程度の成果しか得られていない。応募者自身の労働・社会保障の組み合わせ問題をも対象としつつ、研究期間終了以降も引き続き本研究計画を遂行していくこととする。
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