本研究は、これまで長く指摘されてきた高校国語科の課題 ―すなわち「読むこと」の指導に比べて「話すこと・聞くこと」「書くこと」の指導が十分でないこと、所与の教材の読解指導が重視されるあまり、主体的な表現に関する指導が軽視されていることなど― が、今回の学習指導要領の改訂によって解決に向かうのか、高校国語科の授業はいかに変わるのか、という問いに答えようとする。具体的には、新しい学習指導要領が施行される前後の期間において、高校国語の授業の実態を継続的に観察することで、その改訂が授業のあり方にどのように反映されるのかを捕捉し、その趣旨の浸透状況を経年的に明らかにすることを目的とする。 本年度も、一定の規模で継続的な調査を行い、授業内容の経年的な変化の捕捉を試みた。具体的には、3つの国立大学の新入生を調査対象として、対象者が高校在学中に受けた高校国語の授業内容が、現行/新・学習指導要領の個々の指導事項をどの程度踏まえたものであったのかを尋ねる質問紙調査を実施した。経年的な比較において、いくつかの項目で授業内容の変化を指摘し得る特徴を見出した。 また、最終年度にあたる本年度は、高校における指導の実態を実地調査によって確認することに重点を置いて研究を進めた。具体的には、愛知県、大分県、兵庫県、福井県の高校について、教員への聞き取り、教員との協議による調査研究を行った。これらの調査からは、新しい学習指導要領の理念の浸透にはいまだ及ばずと言わざるを得ず、青森県、岩手県、長崎県の教員との協議の中でも同様の課題が指摘された。 新しい学習指導要領の中では、各教科における批判的な思考力の育成が意図されており、国語科でも関連の指導事項は少なくない。それら事項への取り組みも試行錯誤の段階であり、教員の指導に対する種々の支援の必要性が確認された。
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