研究課題/領域番号 |
20K02457
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
三木 博 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (10229669)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育映画 / 授業 / 林竹二 / 羽仁進」 |
研究実績の概要 |
本研究の課題及びねらいは、「授業の映像化の論理と構造の解析」にある。次の三つの論点及びそれらの構造連関を解明・分析することにある。最初の論点として、「授業の映像化」の解析という課題である。傑出した「教育映画」のうちに表象されている「映像のなかの教育/映像としての教育」という局面を辿りながら、それらの内実を明晰に把握してみることである。二つ目の論点としては、その具体的な作業として、教育記録映画の映像表象に纏わる独自の論理――すなわち「映像の論理」(視覚表象)と「教育の論理」(教育言説)とのあいだの相互連関の在り方を明らかにすることである。そして三つ目の論点としては、「授業の映像化」に内在している独自の構造について、具体的な映像分析の作業から実証的に検証してみること、以上の三点である。 教育映画の撮影では、教師や子どもたちも含めて授業の在り方は、当然のことながら映像として写される。授業を「写す/映す」とは、撮影行為が「撮る/盗る」ことに堕さないように、理念としては授業の核心を「移す」関係にあるものとしてここでは理解しておきたい。授業とは本質的には一回限りの行為である。たとえそれが幾度も繰り返された内容のものであろうとも、授業の生命的な核心は一回限りの行為に賭けられている。そうした授業を撮影しようとする行為もまた、一回限りの行為でもある。授業の生命的な核心は、演出的に繰り返されて撮影されて、掴まれていくものではない。こうして本来一回限りの授業行為と一回限りの映像撮影とが交互に切り結ぶような一回生起的な経験の内実を確かめることを端緒としながら、映像と教育のあいだに横たわる可能性について考察してみる。これは授業場面の映像表現のうちに表出される教育表象の在り方について、「映像(―図像)」表象分析の視点から、それら表象が生成してくる文脈を見きわめていくことにも繋がるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究論文「映像のなかの教育/映像としての教育――羽仁進『教室の子供たち』と林竹二『記録・授業 人間について』」では、日本における戦前からの「教育映画」(あるいは「文化映画」)の系譜上に位置づけられる「授業映画」について論じた。具体的な映像作品としては、1950年代の代表作として羽仁進の『教室の子供たち』(及び『絵を描く子どもたち』)、そして1970年代の代表作として林竹二の『記録・授業 人間について』という二系列の「授業映画」をそれぞれ取り上げて論じた。本論文は本研究全体のいわばパイロット論文として、「授業の映像化の論理と構造」についての展望を提示している。 ただし今回のコロナ禍の状況において、予定していた各地の大学附属図書館、映像関連のアーカイブ施設などの研究施設の現地訪問による実地調査がほとんど出来なかった。研究の重点課題でもあった現地調査を十分行なうことが出来なかったのは確かに痛手ではあるが、その代わりに遠隔でも入手可能な文献による調査研究を進められたのは幸いであった。その成果は、大学紀要に掲載しておいた論考にまとめておいた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのこの分野での映像資料研究の蓄積はすでに膨大なものであり、関連する分析的言説も枚挙に暇はない。そのなかで本研究では、戦後間もない時期からの「教育映画」の系譜に連なる映像作品群から傑出した作品数篇を適宜抽出して、映像経験のなかに塗り込まれた教育表象、換言すれば「映像のなかの教育/映像としての教育」独自の教育学的文脈の分析作業に注力してみる。 「映像のなかの教育/映像としての教育」とは、言語表現としての教育言説と共鳴・共振しながらも、いわばそうした言語的枠組みをおのずから越境して、その統語法(文法構造/物語)を踏み越えていくような映像表象としての教育独自の位相である。本論考では「教育映画」における「映像(―図像)」表象の分析に極力焦点化しながら、映像としての教育表象が生成してくる文脈についての解明を試みる。すなわち個々の具体的な映像資料の分析作業を介して、言語表象のシステムには一元的には還元(回収)できない教育地平を豊饒に拡大してきた「映像/教育」の連関について、実証的に考察する。 次年度では、コロナ禍の状況での研究調査活動の制約が緩和されるのを待って、本格的な現地調査を出来るだけ速やかに再開していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画として、研究費のうち、出張による調査研究経費にあてる部分が大きかった。 ただし年度初頭からの新型コロナ・ウイルスによる感染状況が全国的に深刻なものとなり、当初予定していた現地調査による出張研究の大半が行えなくなったことによる。 今後の計画としては、感染状況が回復次第、当初の計画通り、日本各地での調査研究を迅速に再開する予定である。
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