研究課題/領域番号 |
20K02460
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研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
山下 美樹 麗澤大学, 国際学部, 教授 (10771420)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | COIL / サービス・ラーニング / ナラティブ交換 / 共感力 / 互恵性 / 関係性構築 / 教授法 |
研究実績の概要 |
ナラティブ交換の潜在的可能性に注目し「能動的に他者と関わり相互尊重を働きかける人ほど質の高い対話ができている」という作業仮説を基盤に、COILの教授法としてナラティブ交換を導入することで、参加学生間の相互尊重の構築と対話能力の向上にどのような影響が与えられるかを考察した。ポートランド州立大学(米国)と麗澤大学(日本)の相互COILプロジェクトは、学生の課題文、提出された毎週の振り返りレポート課題、グループプレゼンテーション、グループ交流、最終レビュー(ビデオ撮影)から収集したデータ(2019-2022年、n=65)を基に定性的方法論のアプローチで分析した。その結果、ナラティブ交換は、自己と他者の理解、共感力(empathy)、活動先との互恵性を育む結果が実証された (山下, 2021; 山下, 2022)。バーチャルでの協働課程で、新型コロナ感染症の罹患や授業参加の辞退により連絡が取れない等、活動の進行の滞り等の困難もあったが、ナラティブ交換による相互理解と信頼の構築により乗り越えることができた。また、活動中は様々な問題が双方の背景で起きた。米国側では大規模自然災害が、日本側では就職活動の挑戦があったが、それらをナラティブ交換で共有することで、より共感が深まった。加えて本COILでの地域活動に関わった関係者との互恵性も築かれた。例として、本学(日本側)の施設環境におけるユニバーサルデザインに着目し、米国側の大学施設における車椅子ユーザーのアクセス環境や設備について学び、本学のそれらの環境施設の改善を指摘した。この過程で、日米の学生間、日米の教員間、日本側の活動先でお世話になった大学教職員間に互恵性が形成された。COIL活動にナラティブ交換を導入することで、SNSのような開かれたバーチャル空間ではなく、閉じられた空間であるCOILではより密接な関係性を築くことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は日・米・トルコの3カ国間の大学間で研究を行う予定であったが、コロナ禍の影響で、トルコの研究協力者の参加が困難になった。しかし、日米間のCOIL授業を4年間継続し65件の質的データを収集し、上記「研究実績の概要」に記した成果を得られた。以下がその紀要論文の投稿と国内外学会発表である。山下美樹 (2021)「オンライン国際連携学修(COIL)の実践と考察:海外パートナー校の大学院生による学習支援」麗澤大学紀要 第101巻pp.107-113.、山下美樹 (2022)「オンライン国際連携学習 (COIL)における試み:ナラティブ交換とエンパシー概念の共有の有効性について」麗澤大学紀要 第102巻pp.105,80-85.、学会報告では、山下美樹(2022)「オンライン国際連携学習(COIL)の教授法: バルネラビリティの共有がパートナーシップの形成に及ぼす影響」第43回異文化間教育学会、山下美樹 (2022)「足元の課題をテーマとしたCOIL型社会貢献活動 ユニバーサルデザイン」日本サービス・ラーニングネットワーク(JSLN)年次大会、Yamashita, M. (2022). Narrative Exchange and Empathy in Collaborative Online International Learning (COIL). IAIR Conference.スイス、Cress, C, & Yamashita, M. (2022). Strategies for Equity & Reciprocity in On-Line COIL/Virtual Exchange Courses. The Professional and Organizational Development (POD) Network in Higher Education.米国。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の科研費延長期間においては、その成果報告として7月にSpringer Nature社から、米国の研究協力者との共著による刊行が決定している。今後は引き続きナラティブ交換をCOILの教授法に組み込み、その実践研究並びに、理論的観点から関係性文化理論(Relational Cultural Theory、以下、RCT) (Miller & Stiver, 1997)を援用し、COILにおけるナラティブ効果の概念化を目指す。 具体的活動として、2023年度よりRCTにおける教育分野の先駆者であるAntioch University のHarriet Schwartz 教授率いるRCTを援用した教員、心理カウンセラーが集う研究会(オンライン)に定期的に参加し、そこで得た知見をもとにCOILにおけるナラティブ効果の概念化について研究を継続している。また、7月には、インド、バンガロールで開催されるthe 9th Asia Pacific Regional Conference on Service-Learningと米国フィラデルフィアで開催されるIAIR学会で研究発表を行い、海外のサービス・ラーニングの現状と、バーチャル教育(COIL)の文脈におけるナラティブ効果の概念化について研究を継続する。 COILの実践については、米国のCOIL発祥の教育研究機関であるニューヨーク州立大学(SUNY)のパートナー教員と2023年度秋学期のIntercultural Communicationの授業で実施予定であり、その準備を進めている。COILパートナー教員、ならびに、COILサポートのエキスパートと共に進めている準備プロセスを、RCTに依拠し分析を進めている。その結果を2023年度の紀要で論文投稿を行ない、2024年度の学会で報告する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金費用使用計画には、2023年7月にインド、バンガロールで開催されるthe 9th Asia Pacific Regional Conference on Service-Learningと、米国フィラデルフィアで開催されるIAIR学会での研究発表のための渡航費、宿泊費がある。加えて、COILをニューヨーク州立大学(SUNY)と継続するための、SUNYで主催するワークショップ他に参加する等の計画がある。
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