研究課題/領域番号 |
20K02462
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
山本 珠美 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (60380200)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大学開放 / 大学拡張 / 開かれた大学 / 生涯学習 |
研究実績の概要 |
拙著『近代日本の大学拡張:「開かれた大学」への挑戦』(学文社、2020年)は、日本における「大学拡張」(University Extension)の具体的実践事例を時系列に沿って検討したものであるが、その出発時における詳細の検討は不十分であった。「開かれた大学」思想の系譜を辿るためには、大学自治論と大学拡張(大学開放)論との時に相反する関係性を検討することも欠かせないが、その掘り下げも十分ではなかった。 明治初中期の「萌芽期」に続く、明治後期~大正半ばの「波及期」において京都帝国大学が取り組んだ一連の事業は、日本の大学拡張を確立した意義を持つが、初代・二代・三代総長の木下・岡田・菊池の描いた大学構想だけではなく、谷本富(理工科大学教授、のち文科大学教授)が自らの授業を公開し、松岡道治(医科大学教授)が学外団体主催の講習会や講演会へ出向くなど、教授陣による取組が先行していた。東京帝大による萌芽期の取組が京都帝大へ波及しただけでなく、京都帝大の「開かれた大学」を目指す取組が「閉じた大学」と批判される東京帝大へ影響を与えるという反対方向の動きも見られた。 高等教育をめぐる「門戸開放」「医育統一」の議論との関連性にも着目する必要がある。京都帝大の大学拡張は正規とは異なる講演会・講習会等を設ける形での門戸開放であるが、ほぼ同時期の東北帝大における正課の門戸開放(傍流・女性の入学許可)とも連動するものであった。また、医育統一論は医師養成を大学に一本化することを目指すが、既に大学以外で養成された現職医師の能力向上問題も議論されることになる。事実、地域の医師会から大学へ講習会実施を要望する建議書が出される事例も見られた。 第二次世界大戦後、学外(特に地域社会)からの要請を巡ってしばしば議論が起こるが、アカデミックフリーダムを重視する人々によってそれらの議論は後景に追いやられる傾向があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、他大学の図書館・文書館の多くが学外者利用の中止を継続していた。そのため、各年度1~2大学ずつ調査する予定としていた私立大学の実践事例分析を手がけることが叶わなかった。 そのため、副題に掲げている1960-70年代という時代に拘らず、「開かれた大学」思想の源流に関して調査を進めることで、不足分を補っている。
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今後の研究の推進方策 |
資料収集が比較的容易であることを重視して研究推進方策を検討する。1960-70年代という時代に拘らず、その前の時代も含め、「開かれた大学」の思想的基盤がどのように形成されたのかを明らかにする。 方向性としては2点を考えている。①「開かれた大学」の原形態は明治末期に確立したことが過去の研究によって明らかになっている。しかしながら、その詳細については十分論じなかったため、過去の研究成果を改めて検討し直す。②第二次世界大戦後から大学紛争期にかけての大学論、とりわけこれまで検討してこなかった大学自治論に由来する議論(大学理事会法や大学管理法をめぐる議論)も検討対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により、予定していた出張(他大学図書館・文書館への資料収集)を中止せざるを得なかった。今年度も状況は不透明であるが、最低限、京都大学に関する資料収集など、可能な限り使用したいと考えている。
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