研究課題/領域番号 |
20K02470
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
井谷 信彦 武庫川女子大学, 教育学部, 講師 (10508427)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 即興 / インプロゲーム / シアターゲーム / エネルギー / ヴァイオラ・スポーリン / 演劇教育 |
研究実績の概要 |
今年度は、演劇をはじめとする舞台芸術や即興パフォーマンスの実演家/思想家の著作、および即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育の実践/理論に関する著作を中心に文献調査をおこない、これらの領域におけるエネルギー概念の用法を明らかにした。この成果の一端は日本教育学会第79回大会にて「Viola Spolinの演劇教育思想にみるエネルギー概念の特徴」として発表された。また、この学会発表をもとに発展させた論文「ヴァイオラ・スポーリンの演劇教育思想にみるエネルギー概念の内実と射程」を日本教育学会の機関紙『教育学研究』第88-2号に投稿中(審査中)である。 上記の調査により、①演劇をはじめとする舞台芸術や即興パフォーマンスにおいても、即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育の実践/理論のなかでも、エネルギーが重要な現象の1つとして論及されていること、②特に、演劇教育家ヴァイオラ・スポーリンによる著作のなかでは、エネルギーと呼ばれる現象が、課題の解決、コンタクト、インスピレーション、怖れと抵抗、指導者の診断、スポンタネイティ、個人の自由など、彼女の実践/理論の核心を占める諸現象と密接に関わる、重要な現象として捉えられていること、③スポーリンによるエネルギー概念の規定とこの現象をめぐる洞察が、即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育実践の分析・省察にとって、重要な視点を示唆するものであることが明らかにされた。 また、上記と並行するかたちで、即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育の実践者らに、エネルギー概念の意味や用法に関するインタビュー調査を行っている。これについては次年度以降も(調査対象者の範囲を広げて)引き続き調査を進めたうえで、学会発表や学術論文などのかたちで調査結果を公にしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①上記文献調査により、当初予想された以上に豊かな示唆に富んだエネルギー概念の内実と射程が明らかにされたこと。②特に重要なヴァイオラ・スポーリンの演劇教育思想にみるエネルギー概念の特徴に関しては、学会発表を経て論文の投稿にまで作業を進めることができたこと。③インタビュー調査に関してもすでに3名への調査を終えており、各々の結果から本課題について重要な示唆を得られたこと。
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今後の研究の推進方策 |
①引き続き、教育、即興、演劇に関わる分野におけるエネルギー概念の意味と用法を明らかにするべく文献調査を進める。次年度は、欧米の教育思想や現代の教育言説を紐解き、この概念の特徴を調査する予定である。また、②即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育の実践家/理論家らへのインタビュー調査も継続していく。次年度は特に、ドラマ教育・表現教育の専門家へのインタビューを計画している。以上①②によって、即興演劇やインプロゲーム等の手法を用いた教育の実践/理論の分析・省察にとって、エネルギーと呼ばれる現象がいかなる示唆を与えるものであるのかを、さらに明確にすることができると期待される。これに加えて、③即興演劇やインプロゲームのワークショップを行ったうえで、講師や参加者へのインタビュー調査をとおして、エネルギー概念を指針とする省察の意義と問題点を明らかにする調査を構想している。だがこの③に関しては、COVID-19感染症の拡大により従来通りの対面ワークショップの実施が困難となることが予想される。このため、現在申請者らが企画・実施しているオンラインのワークショップやショーケースを、新規の調査フィールド候補として検討しているところである。しかしながら、オンラインのワークショップでは、身体をもって空間を共有することができないほか、通信障害、ラグ、動画や音声の不調など、様々な問題が参加者の体験の阻害要因となりうる。特に、本課題のテーマである「エネルギー」を指針とする省察にとっては、これらの問題が大きな障壁となることが予想される。ワークショップをオンラインで実施するのか、対面で実施するのか、あるいは調査方法を変更するのかは、今後の感染拡大状況に照らして判断したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の調査は、COVID-19の感染拡大により出張・招聘の中止などがあったものの、計画全体としては、当初予定していた以上に円滑に進めることができた。節約された旅費などは、当初計画以上のペースで遂行された文献調査の費用などにあてたが、すべて使いきることはなく2538円の残額が生じた。この残額は来年度以降の調査費用(文献調査、インタビュー、ワークショップ実施など)に充当していく予定である。
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