研究課題/領域番号 |
20K02470
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
井谷 信彦 武庫川女子大学, 教育学部, 准教授 (10508427)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 即興 / インプロゲーム / シアターゲーム / エネルギー / ヴァイオラ・スポーリン / 演劇教育 / ジョン・デューイ / オープンダイアローグ |
研究実績の概要 |
当初計画において2021年度は、(1)エネルギー概念の意味と用法の解明、(2)この概念を教育実践に架橋するための知見の創出、(3)省察ワークショップの実施と分析を、おもな課題としていた。(1)と(2)に関しては、①スポーリンのエネルギー概念の分析をとおして、即興、演劇、教育の三者とエネルギー現象の密接な関連と、即興表現を基調とする教育実践への重要な示唆を明らかにした論稿、②デューイの思想の中心概念である経験がエネルギー現象を媒介とするものであることを解明したうえで、プラグマティズム哲学と教育人間学との新たな対話の可能性を示した論稿、③教育を主題とするゼロ年代の雑誌記事におけるエネルギー概念の意味と用法を精査することで、日常の教育言説にみるエネルギー概念の核となる4つの意味内実を明らかにした論稿の、3つを刊行したことが今年度の主たる成果である。加えて、これらの知見に基づいてさらにエネルギー概念の内実と射程についての調査・論考を発展させるべく、2021年11月に「エネルギーの教育思想史研究会」を立ち上げ、以後計5回の例会をとおして、アリストテレス、バタイユ、フロイト、シュタイナーらの哲学・思想におけるエネルギー概念の来歴と含意を精査してきたことも、重要な進展であった。この成果は2022年度の教育思想史学会大会にて報告予定であり現在準備を進めている。(3)については、依然コロナ禍により対面ワークショップの実施が困難な状況であるが、オープンダイアローグを主題とする遠隔ワークショップの場において、エネルギー概念を指針とした省察の手法の開発を進めてきた。対面ワークショップとは異なり自他のエネルギーを実感することの困難な環境ではあるが、交流分析の手法であるエゴグラムを再構築することで開発してきた「エネグラム」は、対話をめぐる視覚的・協働的な省察のツールとして受講者からも好評を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)スポーリン、デューイ、バタイユ、フロイト、シュタイナー、日常の教育言説、各々に見られるエネルギー概念の内実と射程を分析することで、この概念が教育/教育学に与えてきた影響と示唆について、またこの概念が省察にとってもつ意義について、当初予想された以上の広い視野と豊かな洞察を得ることができた。(2)コロナ禍により対面ワークショップの実施が困難な状況が続くなかではあるが、上記の洞察にもとづいてエネルギー概念を指針とする省察方法の開発に取り組み、遠隔ワークショップの現場にて実践をおこない検証・改善を進めることができた。だが下記の事情によりこの開発は未だ受講者へのアンケート調査などを行える段階にない。(3)コロナ禍のもと、遠隔ワークショップにおいて自他のエネルギーを実感することに関わる困難や、オンラインのワークショップを実施・継続することに関わる困難から、計画当初に存在したような調査のフィールドを設定することは不可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に引き続き、(1)エネルギーの教育思想史に関する調査により、教育学、心理学、哲学、芸術学などの諸分野にみられるエネルギー概念の来歴と含意を、もっぱら自然科学におけるエネルギー概念の「発見」との関係に照らして明らかにする。(2)即興表現の手法をもちいた教育実践とエネルギーとの関連についてのインタビュー調査結果の分析をとおして、教育の実践/理論および上記エネグラムの開発・改善に向けた知見を析出する。(3)遠隔ワークショップにおいて自他のエネルギーを実感することの難しさや、オンラインのワークショップを実施・継続することに関わる困難を補いながら、講師や受講者の協力を得て、エネルギー概念を指針とする省察方法の開発・改善に取り組んでいく。以上の取り組みにより、教育/教育学におけるエネルギー概念の来歴と含意に関する洞察を背景として、実践者の実感にもとづくエネルギー現象の理解とこの現象をめぐる彼/彼女らの言葉遣いに示唆を得ながら、エネルギー概念を指針とする省察の手法を開発・改善を継続することが、2022年度の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により対面ワークショップや対面インタビューを実施することができず旅費を使用する機会がなかった。また、遠隔ワークショップの講師を申請者自身も務めたことにより、講師謝金も使用されなかった。節約された経費は、当初の予定以上に精緻に実施された文献調査の費用に充当されたが、すべてを使いきることなく88,144円の残金が生じた。この残金は主に来年度実施予定のインタビュー調査やアンケート調査の謝金に充てる予定である。
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