研究課題/領域番号 |
20K02476
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
宮原 順寛 北海道教育大学, 大学院教育学研究科, 准教授 (10326481)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 授業研究 / 現象学的教育学 |
研究実績の概要 |
理論研究としては、2021年度には、論文や書籍等の先行研究の検討を行い、以下のように学会における口頭発表と書籍の担当章の執筆を行った。 日本教育方法学会第57回大会の課題研究Ⅲ「教育実践研究における研究倫理――教育方法学研究の臨床性」において、「エピソードで語る教育臨床研究の倫理に関する問題群――授業研究と現職社会人院生指導の現場から」と題して口頭発表を行った。この発表においては、発表者自身が学校の校内研修へ参加する外部研究者として経験したエピソードをもとに7つの問題群について提起を行った。例えば、「授業研究の検討会における外部研究者の発言のあり方についての倫理」という倫理的問題の提起として、研究者が実践者に対して非対称で絶対的な権力関係を有することや、学校内の教職員にとっての授業研究の基盤が同僚性にあることに対して研究者は外部性を基盤として授業研究の分析を行うことへの自覚、「私の世界」に固執するのではなくて私が「相手の世界」に入ることを授業研究の方向性として志向することの意義等について検討した。 また、湯浅恭正と福田敦志の編による書籍『子どもとつくる教育方法の展開』のをミネルヴァ書房から刊行した。この本の第5章が、宮原順寛「子どもと出会い直すケア」(69~84頁所収)である。現象学的教育学における授業研究では、子どもはそこで何を経験していたかを大事にする。その際に、ケアの倫理を基盤とした子ども理解を行うことによって思慮深い実践家としての省察が可能となる。この章ではその基盤となるケアについての近年の議論を文献に基づいて整理検討した。 実践研究としては、専ら北海道内の小中学校での授業研究を授業動画の提供を受けてのZoomでの授業検討会への参加という形で行った。これらの実践研究から得られた研究成果の一部は、上述の学会発表及び書籍の担当章の執筆に際しての着想の源となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論研究の側面では、上述のように論文や書籍等の検討を踏まえて、1件の学会発表を行った。また、1件の書籍刊行に際して担当章の執筆を行った。これらのことから、理論研究としては順調に進展していると判断した。 一方で、授業研究フィールドワークとしては、2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行に伴って多くの小中高等学校において学外からの研究者を招き入れての校内研修が中止となり、当初の計画のようには実践研究ができていない。しかし、その反面で、北海道の宗谷地域、日高地域、札幌市、長崎県諫早市等の学校や民間教育研究サークルからの遠隔での授業研究あるいは講演の依頼があり、動画を視聴した上で分析コメントを送り返すなどのような新しいかたちでの実践研究が実現しており、「現象学的教育学に基づく授業研究モデルの開発」という研究テーマを拡張しながら実践研究を進めることができている。実践研究における上述した2つの側面を勘案しつつも、2年連続で満足に学校現場を実地に訪問することができていない点を重視して、予定よりも研究がやや遅れていると判断した。 上述した理論研究と実践研究の両者を総合的に勘案して、本科研全体としては、「(3) やや遅れいている」の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
理論研究面では、予定通りに現象学的教育学に関する文献調査と検討を進める。さらに加えて、ケアの倫理に関する文献研究を加味して、授業研究モデルの倫理的側面からの基礎づけについても検討を行う。 一方、実践研究面では、前項目の「現在までの進捗状況」にも記載しているが、新型コロナウイルス感染症の流行に伴って、多くの小中高等学校において学外からの研究者を招き入れての校内研修が難しい状況となっている。そのため、双方向会議システムZoomや動画の限定公開閲覧サービスYouTube等を活用して、直接の現地訪問を伴わない授業研究フィールドワークの方法を開拓しつつ研究活動を実施する必要がある。ただし、本報告書を記述している2022年5月現在では学校現場からの校内研修への研究者の参加の打診が増えつつある状況であり、直接の現地訪問と遠隔参加の両面からの授業研究モデルの開発を行いたい。 3年間の研究計画の最終年度である2022年度において充分な実践研究が蓄積できなかった場合には、1年間の研究期間の延長も視野に入れながら、理論研究及び実践研究に取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に引き続いて2021年度にも次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染症の流行のために、出張を予定していた学会及び小中高等学校等での授業研究フィールドワークの多くがZoom等での開催に変更となり、旅費を使用しなかったためである。 2022年度においては、北海道日高地区、同宗谷地区、札幌市、長崎県諫早市等の学校等からの授業研究の依頼を積極的に引き受けて現地に赴くと共に、遠隔授業研究に資する授業動画の撮影機器及び再生機器等の整備を行いたい。
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