フランスでは「信頼の学校のための2019年7月26日付法律」(以下、2019年法と略記)により、義務教育の開始年齢は従来の6歳から一気に3歳にまで引き下げられた。 まず、法律の成立の過程について、2017年大統領選挙における各候補者のアジェンダから、2018年3月の「保育学校会議」、そこでのマクロン大統領の演説、同年12月の法案提出から2019年7月の法律成立までを整理した。 そのうえで、法律の審議過程における各党の主張を分類、整理した。特に幼児教育の義務化については、伝統的に左派の政策であったが、今回の3歳までの引き下げは中道・右派の政策であり、特に右派はどのような論理で賛成に回ったのか、あるいは、反対したのかを検討した。また、この度の制度改革の出発点となった「保育学校会議」(2018年3月)の報告書(Cyrulnik 2019)を素材として、同会議を主宰した脳科学者シリュルニクの理論が、義務化の根拠としてどのように援用されているのかを検討した。 一方、義務化に伴いこれまで2~3歳児を中心に受け入れてきた「幼児園」(jardin d’enfants)は保育所等に転換されることとなった。この幼児園は、保育所と保育学校の中間形態と言われ、画一的な幼児教育制度においてほとんど唯一のオルタナティブである(Puydebois et al. 2020)。義務化に伴う幼児園への影響も併せて検討した。 なお、この他にも、フランスは2歳から学校教育を受けることができる数少ない国の一つであるが、2歳児就学の政策と義務化に伴う影響(受け入れ促進策の増減等)を検討する必要もある。 こうした一連の課題は論文の形にまとめるに至らす、基礎作業を進めたにとどまった。次の科研費では、フランスの3歳児義務化に焦点を絞った研究課題で採択されているので、今年度の成果を次年度以降順次発表していく予定である。
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