研究課題/領域番号 |
20K02502
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
高橋 舞 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (50735719)
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研究分担者 |
小野 文生 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (50437175)
岡部 美香 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (80294776)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | カタストロフィー / 民衆思想 / 〈生〉の実践知 / 記憶継承 / 共生知 / 受苦 |
研究実績の概要 |
今日の私たちは温暖化に起因する天災や新型コロナウィルス感染症拡大によるパンデミック、戦争等と、世界的に厄災の日常化した受苦的「生」を生きている。今教育学に切実に求められていることは、学ぶほど豊かな成長と実りある人生がもたらされる上昇の志向性を有してきた近代教育観に基づく教育ではなく、受苦的環境にあっても身体的精神的死に至らずに「生」を持続させられる教育人間学的実践理論の創生であろう。本研究は、人々の苦しみに寄り添い人間形成を支えてきた民衆思想・民衆思想家に着目し、文献研究、民衆思想家への聞き取り調査、民衆思想家が関わった記憶継承空間のメディア分析手法を用いその思想や思想実践の中から、受苦の記憶が人間の〈生の実践知〉として体得・継承される際の条件を抽出し、教育実践理論の構築を目指すものである。 2年目となる2021年度は、コロナウィルス感染症拡大状況下に注視しながら夜間中学、ハンセン病、水俣、沖縄の問題等にフィールドを持つ共同研究者がそれぞれ可能なフィールド研究を実施し、文献研究と統合した成果の一部を、学会発表や論文等で公表することができた他、昨年度は実施を見送った研究代表者の主要研究―フィールドである沖縄での民衆思想家聞き取り調査等も再開でき、研究を深めていくことができた。 また2021年12月と22年3月に東京、大阪で共同研究者、研究協力者、主要研究対象者である花崎皋平氏を交え(オンライン参加の場合も有)、研究の進捗状況を話し合い、3年目以降の共同研究計画を構想した。特に、共同研究者、研究協力者で共同して研究する軸の部分としては、受苦を基盤とした共生哲学を社会思想化した民衆思想家・花崎皋平氏の仕事の意味と、教育人間学として継承していく意義を、座談会やインタビュー調査等も用いながらまとめていくことを22年度の目的の一つとし、具体的な計画準備を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は国内外におけるフィールド研究に重点を置いた研究計画を持ってきたため、昨年度に引き続き本年度も新型コロナウィルス感染症拡大状況が収まらず、特に海外への出張は全く実施できておらず、当初研究計画通りのフィールド研究が行なえていない点は、大幅な遅れが生じていると言わざるをえない状況にある。 しかし、本研究開始以前より共同研究者全員が着実な関係性を構築したフィールドを持っているため、遠隔的でも聞き取り調査や情報収集を行いながら研究を進めてくることができている。また新型コロナウィルスによるパンデミック状況に加え、本年度2月24日にはロシアによるウクライナ侵攻、戦争まで始まり、かつてないカタストロフィーな事態が現実化していることで、研究代表者のフィールド先である沖縄の民衆思想・思想家たち等が、この事態を乗り越えるための、かつてないほどの活発な議論や思想実践の動きがみられるようになっており、当初の計画よりはるかに高い次元のレベルで調査を行うことができている。以上により、研究の質的内容は充実しており大きな遅れを生じているとは考えていない。
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今後の研究の推進方策 |
現時点において抜本的な研究推進方針の変更必要性は感じていない。ただし本研究は、国内外におけるフィールド研究に重心を置いており初年度に引き続き21年度も新型コロナウィルス感染症拡大状況により、十分なフィールド研究の機会を得ることができなかったため、全体計画の前半に集中的に予定していたフィールド研究を後半に回す必要性は生じている。特に現在全く実施できていない韓国等の海外フィールド研究については、フィールド先と細やかな連絡を取り合い、リモートでの調査も含め、研究に支障をきたさないように心がけていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大状況下で、予定していたフィールド調査の一部しか実施できていない状況が続いているため、一定額の次年度使用額が生じた。状況に注視しつつ、可能なフィールド調査から順次実施していきたいと考える。
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備考 |
小野文生、「〈非在〉のエティカ――ホモ・パティエンスの人間学のために」 京都大学博士論文(大学院教育学研究科)pp.1-469
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