研究課題/領域番号 |
20K02507
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高橋 哲 埼玉大学, 教育学部, 准教授 (10511884)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 労働基本権 / 労使関係法 / 団体交渉協約 / 教員組合 / 給特法 / 教員超勤訴訟 / 労働基準法上の労働時間 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に以下の二つの課題遂行を行った。第一に、アメリカの団体交渉にもとづく労働条件決定方式が、新型コロナウイルス感染症の蔓延のもと、如何に機能したのかを、全米動向とともに、ニューヨーク市学区の臨時協定(Memorandum of Agreement)をもとに分析した。そこでは、オンラインと対面の混合学習を実施するにあたり、勤務時間の特例が臨時協定によって定められ、正規の勤務時間を6時間50分とした上で、1日30分間の「授業コーディネート時間」、1日30分間の「準備時間」さらに、子ども・保護者とコミュニケーションをとるための1日20分間のオフィスアワーが設定され、教員が臨時的状況に対応するための新たな裁量時間が設定されている。労働当事者である教員団体を参加させた団体交渉方式は、教員の総労働時間を抑制するにとどまらず、臨時的対応が求められたコロナ禍においても首尾良く機能したことを明らかにした。 第二に、さいたま地裁にて2021年10月1日に言い渡された埼玉教員超勤訴訟第一審判決の分析を行い、判決が示す到達点と課題について検証した。本判決においては、給特法の見直しを求めた判決末尾の「付言」が注目され、一方で、原告の請求がいずれも棄却されたことから、その評価は総じてネガティブなものであった。しかしながら、本研究においては、給特法制定後の教員の超過勤務をめぐる判例との対比をもとに、本判決が教員の時間外労働を「労働基準法上の労働時間」として認定した点に焦点をあて、この裁判所の法律判断が現在の「学校における働き方改革」施策に与える影響について分析をおこなった。 また、最終年度を迎えるにあたり、本年度はこれまでの研究成果の公表作業についても尽力した。上記の研究成果の一部については、2022年度中に単著として刊行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に続き、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う渡航規制により、当初予定していた教員勤務時間管理の運用実態に関する現地調査を、米国内(主にニューヨーク市学区)において実施することができなかった。このため、公表資料上では判然としない運用実態に関しては、関係者へのメールによる質問、Zoomを用いたオンライン・インタビューによって代替した。これらの対応により、当初予定の課題が遂行されていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、当初予定していた教員の勤務時間管理の運用実態に関する調査をニューヨーク市学区において可及的速やかに実施することを計画している。しかしながら、2022年春にニューヨーク市における感染者の増加傾向が報道されているため、次年度の実施が困難であった場合には、本年度と同様にオンラインツールを活用した代替的調査を継続する。また、これまでの研究成果については、国内媒体にとどまらぬ他学術領域の媒体に発信していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施予定であった米国内での予備調査が、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う渡航規制により実施できなかったため、関連旅費等を次年度に繰り越すこととした。この現地調査については、次年度に実施することを予定している。
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