研究課題/領域番号 |
20K02515
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
西平 直 上智大学, グリーフケア研究所, 教授 (90228205)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | モラル育成 / ブータン / スピリチュアリティ / 人格形成 / コスモロジー / 稽古 / 身体 |
研究実績の概要 |
本研究は、ブータンをフィールドとした、「モラルの育成」を主題とする研究である。理論研究としては「モラル育成にとってのスピリチュアリティの意味」に焦点を当て、フィールド研究と理論研究を往復する研究を目指す予定であった。 ところが、2020年度、2021年度に続き、2022年度も新型コロナウイルスのため、大幅な計画の変更を余儀なくされた。限定的な渡航は可能となったが、本研究に必要なインタビュー調査は難しいと判断した。先方の関係機関とはインターネットやSNSを通じて連絡を取り続けたが、実質的なインタビュー調査は、断念せざるを得なかった。そこで今年度も、研究の焦点を理論研究に移し、研究の理論的基盤を根底から問い直す研究を継続した。 1)「モラル形成」に関する理論研究については、「西田哲学と「東洋的世界観の論理」-『日本文化の問題』再考」、「「自得する」ということ-荻生徂徠の学習論・稽古論・教育論」、「問い直しのエチュード-「私に従ってはならない」をめぐって」を発表した。 2)昨年度から開始した自らの「モラル形成」の記憶をたどる試みを継続し、月刊『みすず』誌上に、以下のテーマで、発表した。(「なぜ神は-「すべてはよい」か」、「運命ならば-「仕方がない」か」、「死者となった者たちの声-『サン・ルイス・レイ橋』を読み直す」、「臆病なのに-二十歳の旅から(1)」、「なぜか縁あって-二十歳の旅から(2)」。 3)さらに、日本における「モラル形成」を身体の視点から問い直すために、月刊『武道』(日本武道館)に毎月の連載を開始した(第一回「武道の地平線」、第二回「守・破・離の「離」-「稽古とは 一より習い十を知り 十よりかえる もとのその一」、第三回「守・破・離の「破」-守から破へと折れ曲がり、破から離へと折れ曲がる」、第四回「守破離の「守」-「守」がなければ「破」も「離」も生じない」」。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたブータンにおけるインタビュー調査が実施できなかったため、理論研究に焦点を当てた。論文を執筆する仕事も進めたが、オンラインを使い、多数の講演を担当した。タイトルだけ列挙すれば、以下のようなテーマについて講演し、質疑応答する中で、「モラル形成」の問題を多角的に考察した。 例えば、「なぜ神は助けないのか」(仙台白百合女子大学カトリック研究所、公開講座)、「正解のない問いの前で」(博報堂教育財団Educator Gathering)、「ケアの人間学-自分をケアする・ひとをケアする」(日本緩和医療学会)、「稽古と無心-しなやかさの系譜」(京都大学、エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム)、「時空を超える「わたし」-輪廻の思想・養生の思想」(大牟田・にんげんフェスタ・トークイベント)、「稽古の思想」(茶道文化講座、青山グリーンアカデミー講座)、「芸道・武道の稽古から見た「信心の稽古」」(金光教国際センター)、「日々の暮らしと死生観 -死んだらどこにゆくのか」(上智大学オンライン神学講習会)、「傾聴と無心-スピリチュアルケアにおけるしなやかさ」(上智大学グリーフケア研究所・修了生の会)。 なお、2022年4月より、所属が上智大学グリーフケア研究所に移り、「ケア」に焦点を当てた研究を行っている。前回の科研費課題(「ケアとスピリチュアリティの教育人間学的解明‐女性宗教者への聞き取り調査を中心に」2015年4月1日~2020年3月31日)を、理論的に継続するとともに、ケア者を養成する中で、「モラル形成」の問題を検討することにもなっている。 2023年度中には、ブータン調査を実施したいと考えているが、以上の理論研究も並行して実施する予定である。当初のブータン研究という意味では規模が小さくなるが、「モラル育成にとってのスピリチュアリティの意味」に関する理論的・思想的研究という意味では、十分に成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は二つの案を想定する。理想的には、両者を並行し、往復することが期待される。 A)ブータンへの渡航が可能になる場合。当初の計画通り、インタビュー調査を実行する。1)NPOローデン基金(後述)の活動調査。とりわけ「SEEDプロジェクト」の調査。2)RTC(ロイヤル・ティンプー・カレッジ)の学生インタビュー。3)遠隔地の山村(Dawakha)の保育園スタッフの調査。4)僧院(Dechen Phodrang)の調査。いつ訪問することになっても、準備はできている。 B)ブータンへの渡航が不可能な場合。このまま理論研究を深め、とりわけ、「ケアとスピリチュアリティ」の思想的関連を追究する。勤務先が、グリーフケア研究所に変更になったため、この課題に集中しやすい。具体的には、1)死生学とケアの関連を明確にするべく、スピリチュアルケア、グリーフケアに焦点を当てる。2)日本思想における「モラル形成」、とりわけ、前近代の「身体」に焦点を当てた自己形成の思想を見る。3)日本思想の知恵を英文にして海外の研究者に発信する。拙著『無心のダイナミズム』、同『世阿弥の稽古哲学』の英訳作業が最終段階に入っているため、その作業を遂行する。4)スピリチュアリティの位相を比較研究するエピステモロジー(存在・認識論的地平)の基礎研究を行う。またそれ以外にも、依頼講演などの機会にその成果を発信する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も新型コロナウイルスにより、大幅な計画の変更を余儀なくされた。渡航は一部限定的に再開されたが、先方の関係機関と相談し、インタビュー調査は次年度以降に持ち越すことにした。 本年度は、A)ブータンへの渡航が可能になれば、当初の予定通り、インタビュー調査を実行する。1)NPOローデン基金(後述)の活動調査。とりわけ「SEEDプロジェクト」の調査。2)RTC(ロイヤル・ティンプー・カレッジ)の学生インタビュー。3)遠隔地の山村(Dawakha)の保育園スタッフの調査。4)僧院(Dechen Phodrang)の調査。B)ブータンへの渡航が不可能であれば、理論研究を深める。その際、1)「ケアとスピリチュアリティ」の思想的関連に焦点を当て、死生学とケアの関連を明確にする。2)「身体」に焦点を当てた自己形成の思想を見る。3)スピリチュアリティの位相を比較研究するエピステモロジー(存在・認識論的地平)の基礎研究を行う。以上の研究の成果を、書籍として、また、論文として公表する予定である。
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