研究課題/領域番号 |
20K02517
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
江利川 春雄 和歌山大学, 学内共同利用施設等, 名誉教授 (10259880)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教員講習 / 中等教員 / 中等学校 / 英語教育 / 夏期大学 |
研究実績の概要 |
本年度は3年計画の2年目である。1年目に続き、戦前期における文部省主催の中等英語教員講習を主な対象に、①実施日程と会場、②講師と受講対象、③テーマと概要などの基礎データを『官報』等の公的記録、英語雑誌及び関連出版物などから収集・データベース化し、公表に備えた。これらに基づき、各講習会の内容を分析・考察し、成果を令和3年度に3回発表した。①5月、日本英語教育史学会全国大会での口頭発表「文部省主催中等英語教員講習の史的研究(その 1)」。②6月、中部地区英語教育学会シンポジウムで招待講演「日本における英語教育学と英語教育研究組織の発展史」、論文化し『中部地区英語教育学会紀要』第51号に発表。③3月、論文「文部省中等英語教員講習の史的研究」『東日本英学史研究』第21号。 研究対象を文部省主催講習以外の①東京・広島の高等師範学校・文理大学の独自講習、②軽井沢夏期大学等での文部省後援講習、③帝国教育会主催の講習、④国民英学会・正則英語学校主催の講習、⑤英語教授研究所主催の講習、⑥地方行政機関による講習などに拡大し、前年度と同様の資料収集・分析・考察等を行った。 それらに基づく研究成果の一部として、①令和4年5月の日本英語教育史学会全国大会で口頭発表「軽井沢夏期大学における英語講習会」を行う。②英語教授研究所主催の講習に関連して、同研究所の機関誌『語学教育』(1942―1972年刊、全122号・114冊・約4,600ページ)を完全復刻し、全10巻+別巻1として3回に分け、東京のゆまに書房から刊行する(第1期全5巻は令和4年6月に刊行予定)。2年目に得られた知見で特記すべきは、民間による軽井沢夏期大学(1918年開始)が社会教育としての高等英語講習会及び教員再教育の機能を果たし、その後の大学等での夏期講習会に多大な影響を与えたことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の令和3年度は3件の研究成果発表を行うことができた。1年目に獲得した文献・資料調査のノウハウを活かし、文部省主催以外の①高等師範学校・文理科大学主催、②民間の軽井沢夏期大学や各種英語学校主催、③英語教授研究所主催などの多様な教員講習会に関する資料を収集し、分析と考察を進めることができた。 これらは従来まったく手つかずの研究領域であったが、②に関しては学会発表を行うまでに実態を把握することができた。とりわけ軽井沢夏期大学に関する以下の知見は重要である。戦前は1918(大正7)年から1934(昭和9)年まで17回開催され、会期は平均11.1日、1927(昭和2)年からは文部省の後援を得た。内容は55%が英文学、次いで英語学9%、風物知識5%、英作文4%、英語教授法4%などだった。講師は市河三喜(東京帝大)、Glenn Shaw(山口高商・大阪外語)、土居光知(東北帝大)、石川林四郎(東京高師・文理大)、新渡戸稲造(農学・法学博士)などの第一人者が担当した。戦後は1949(昭和24)年に再開され、英語講座の責任者は岩崎民平(東京外大)で、会期は平均3.3日に短縮された。内容的には英語教育が23%と大幅に増え、1950(昭和25)年には英語教員免許状取得のための認定講習の機能を備えた。講師は岩崎民平、羽柴正市(東大)、小川芳男(東京外大)、岩田一男(一橋大)、佐々木達(東京外大)、山田和男(一橋大)など一流である。 ③に関しては、同研究所の機関誌『語学教育』(1942―1972年刊、全114冊)の復刻出版を令和4年6月より開始することで、単に講習会の実態解明にとどまらず、戦中から戦後の英語教育史研究に欠かせない一次資料を公刊することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
最終の令和4年度は、過去2年間の研究成果をバージョンアップすることに加えて、研究対象を戦後の「教員養成のための研究集会」(1947年)、「新制高等学校英語科指導者講習会」(1948年)、「教育指導者講習・英語科教育」(1952年)などに拡大する。さらに各大学主催や地方行政機関主催の英語教員講習の実態解明のために、従前と同様の分析・考察等を行う。 留意すべき点として、狭義の教員研修にとどまらず、各種研修とその成果が日本の英語教育学の発展に寄与した側面をも明らかにしたい。 その上で、3年間の研究を総括して明治以降の英語教員講習の通時的研究の成果を報告書ないし図書として刊行し、関係諸機関及び研究者に提供する。それと共に、可能な資料・データ類はインターネットで公開する。すでに収集した関連資料は膨大な数に及び、たとえば雑誌『英語青年』掲載資料だけで399ページに達している。これらはPDFファイルとして公開・提供する予定である。 以上をふまえて、明治以降の英語教員講習の歴史的意義を確定するとともに、今日的な示唆を抽出することで、これからの英語教員研修の質的向上と英語教育学の発展に寄与したい。
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