研究課題/領域番号 |
20K02523
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研究機関 | 十文字学園女子大学 |
研究代表者 |
石川 敬史 十文字学園女子大学, 教育人文学部, 准教授 (90634270)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 図書館史 / 移動図書館 / 自動車文庫 / 公立図書館 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,1970年代における市立図書館の移動図書館の理念・目的と全域サービスにおける位置づけの2点について分析・考察した。具体的には(1)埼玉県和光市図書館における移動図書館「やまびこ号」を対象に,2号車(1981年度),3号車(1993年度)と更新を重ねた経緯や,移動図書館の目的と利用者層の変化について,(2)前年度に資料収集した和光市行政資料(市議会・教育委員会議事録等)に基づきながら,住民運動によって1973年に成立した「やまびこ号」の成立過程について,(3)1965年に巡回を開始し,日本の公立図書館を大きく変革した東京都日野市立図書館「ひまわり号」を創設した館長・前川恒雄の経歴や思想である。 その結果,(1)については,関係者3名の聞き取り調査や資料調査によって,更新の経緯や背景は十分に解明することはできなかったが,図書館の現場レベルにおいて日曜巡回やステーション名の変更など,子どもや母親らを主な対象として,具体的な活動方法の再検討が積み重ねられていたことが明らかになった。 (2)については,設立に時間のかかる公民館分館・図書室の整備を待つことなく,「暫定的」に眼前の住民へまずは移動図書館の成立を目指していたことが明らかになった。他方で,移動図書館の成立後について,住民運動から続く住民による図書館活動への参画と,移動図書館成立と図書館設置への連続性について,全域サービスの視角からさらなる検討の必要性がある。 (3)については,日野市立図書館以外に,日本図書館協会,滋賀県立図書館なども含め前川恒雄の著作等を網羅的に収集し,移動図書館の創設は全域サービスではなく利用者を図書館にひきつけること,「公共図書館」として誰にでも開かれ,自立した主体性のある「市民」の形成に寄与するという前川の思想は,有山崧の思想に通じることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度において,和光市の移動図書館「やまびこ号」に関する調査は順調に推移し,成果を発表することができ論文としてまとめる目途がたったが,東京都町田市立図書館による移動図書館調査(行政資料調査,聞き取り調査)は,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,令和3年度も調査に着手することができなかった。 他方で,本研究において令和3年度に計画していた「資料提供と全域サービスにおける移動図書館の位置づけの考察」については,刊行済の資料・文献収集を中心に前川恒雄(日野市立図書館・館長)の略歴や思想を辿ることができた。ただし,資料・文献に基づく調査に留まり,関係機関に訪問して一次資料等の調査を行うことができず,調査の着手としての状況であるといえるため,「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大の状況により,高齢である関係者への積極的な聞き取り調査や,地域の公共図書館や関係機関に来館し積極的に資料収集ができない状況が続き,当初の研究計画から研究の進捗が遅れている。令和4年度についても同様の状況と推測できる。よって本研究については,令和5年度まで延長することを視野に入れ,令和4年度については,埼玉県和光市の移動図書館「やまびこ号」の調査成果を研究論文としてまとめるとともに,令和3年度の研究計画であった「資料提供と全域サービスにおける移動図書館の位置づけの考察」を継続し,『中小都市における公共図書館の運営』(日本図書館協会),『市民の図書館』(日本図書館協会)における移動図書館の位置づけや,団体貸出,貸出文庫との関わりから全域サービスと移動図書館との関係性について考察を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大により,令和3年度においても,各地の公立図書館等の利用制限や聞き取り調査に対して積極的に実施することが難しくなった。前年度に引き続いて,大学や近隣にて実施可能な範囲内で調査したため,当初予算化していた旅費(学会発表も含む)や人件費(文字起こし等)に支出がなく,未使用額が発生した。とりわけ,調査地へ訪問することがなかったため,令和2年度に購入予定のノートパソコンについても令和3年度に購入しなかった。ノートパソコンについては令和4年度に購入し,公立図書館をはじめ現地調査にて活用していきたい。なお,令和4年度においては,ノートパソコンに加えて,文献資料の購入や図書館・関係機関における複写料金,調査旅費を中心に支出する予定である。
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